LOOM KOBE

日常の中での旅であり旅が日常である。その中でのアクションが“乗るか反るか”の意図で銘打たれたSPEED SPECTER「HELL OR HIGH」で予定されていた旅の日程は、このLOOM KOBEでのイベントを終える事で全てが完遂された事になる。

この何年間かの旅では「BOSTON TATTOO CONVENTION」が旅の締めくくりとしてブッキングされていたが、世界的なウィルスショックによってイベントスケジュールは延期となり、SPEED SPECTERの旅は中断を余儀なくされた。

それだけに、マシントラブルによってパフォーマンスに不満の残った前回の「LOOM OSAKA」のリベンジマッチとして現状で決まっていた日程のラストとなる「LOOM KOBE」でのイベントは、一旦にしても集大成的にアイテムを用意したりクリエイションで特別に何かが行われる事も予測されたが、そう言った主旨のインフォメーションやアクションは何も無いままイベントは行われた。

いつも通り、いやアイテムを持ち込んだりとする普段のイベントよりも更にシンプルにしたイベント。シューズブランド「Portaille」の展示受注会との合同イベントとしてブッキングされている事もあるだろうが、展示するアイテムを一切持ち込まずに工具だけを持ち込んでクリエイションを行う。日常の一端として旅が在り物創りが在る。ただそれだけがSPEED SPECTERにとって最も重要だと言わんばかりに。

「Portaille」のアトリエを兼ねたSHOPである「LOOM KOBE」だけに、クラフトマンシップに溢れた空間で行われたライブクリエイションは、空間との馴染みも良く緩やかにして滑らかに制作を進めさせ、今回はマシントラブルも無く「LOOM OSAKA」でのイベント内容に対するリベンジマッチであった事すら忘れさせる気負いの無い空気感が制作にも空間にも流れる中、地金板をハンマーで叩きながら巻き込んでいき柔らかな膨らみや滑らかな曲面も鍛金で成形していく。

二週間程前に行われた「ROYAL FLASH 2DAYS」で行われたクリエイションが、地金板を切り打ち曲げリューターを用いて彫る事で板からカタチへと変貌させる激しい“動”のクリエイションであったのに対して、リューターの使用は彫るというよりも表情を齎すテクスチャーに留めてハンマーでの成形を軸にした“静”のクリエイション。

コレは完全に高蝶自身が狙っての事なのだろうが、異なる技術を用いながら地金板をベースにして「ROYAL FLASH」でのクリエイションと同じく縦のバランスを重視したペンダントへとカタチを成す事で、美意識や様式が二律背反しSPEED SPECTERの技術に存在する“動”と“静”のクリエイションを披露していた。

「HELL OR HIGH」この旅が中断を余儀なくされる事でSPEED SPECTERにも何かしらの変化が起る事にはなるだろうが、“動”と“静”のクリエイションを行う技術は次に披露する日を待ち構えている。更に研鑽を積みながら確実に。

 

「何処かへ行き、何かを創る」 そのシンプルなコンセプトを軸に、クリエイター高蝶智樹が行うライブクリエイションツアー。
Loud Style Design、VANITAS、ANOTHER HEAVENといった自身が携わるブランドのスタイルや技術を用いるだけでなく、インプロヴィゼーションによってクリエイションを行うライブでは、日頃の創作活動では用いられる事の少ない技術や加工法が繰り出される事も多く、単なるライブクリエイションとは一線を画すものとなっている。
2008年のスタートから10年以上を経過し、コンヴェンションやエキシヴィジョンでの展開、対戦形式で行われるクリエイションバトル等、ツアーのコンテンツに多様化を齎しながらも、「何処かへ行き、何かを創る」というシンプルなコンセプトは変わる事無く旅は続いている。