LIBERATION

「旅というのは目的を決めて歩み始めるものだ」誰の言葉だったかは覚えていないが当然の様に感じるこの言葉が、辿り着いてみて初めて目的が何だったのかに気付かされる事や、気付かないでいた事で遠回りしてしまった経験が大なり小なり人生の中で起ると、当然だと思っていた言葉の内容が当然の様には出来ないのが当然なのだと、言葉遊びの様に考えさせられてしまう。

SPEED SPECTERという旅が2018年からスタイルを変えて始まった時の目的は何だったのだろうか?ブランド毎にスケジュールを別けて次のフェーズに進めるというテーマは示されていたが、明確に目的を言葉で表そうとすると次のフェーズが一体何なのか?を示す事が目的だったかの様に思える。

イベントのスケジュールを消化していく毎に新たなクリエイションが登場し、確かにブランド毎に先へ先へと進んで行く姿は印象的だったが、新作をコンスタントにリリースしてるブランドは少なく無いし、ツアーの中で新作をイベントスケジュールに合わせていくアクションを15年近く前に初めてやってみせたのは他でも無く高蝶自身だった。それだけに新作のコンスタントなリリースが如何に振り幅の広さを持っているにせよ、其れだけで次のフェーズという事では無い事はSPEED SPECTERの旅を見ているとよく解る。

例えば、当然の様に高蝶が毎年参加している「BOSTON TATTOO CONVENTION」だが、シルバーアクセサリーを主軸にしたクリエイターがタトゥーコンベンションに参加する事自体がファッション業界全体を見回してみても異質な事であり、タトゥーコンベンション側にしてみてもライブで彫金を行うクリエイターが毎回参加しているというのはかなり異常な事だ。

しかし、参加している高蝶にとってみれば参加している事が目的でもなければ異質である事が目的でも無く、“何が創り出せるか?”だけが目的として存在し、その連続こそがツアータイトルである「THE LIBERATOR」としての意味に繋がってくるのだろうし、当然であるかの様に歩める旅では届かないストーリーだからこその解放者としての生き方とでも言いたげだ。

ブランドの動かし方として海外での活動を賢く行うのであれば、エージェントやパトロネージと組んで効率良くイベントに参加したりプロモーションを行う事の方が重要になってくるし、現在ならアジア圏で活動した方が待遇や環境も格段に良くなるだろう。経済活動が根幹に存在する以上は、それがファッション業界に限らず常套手段というもので、資金面でもコミニケーション面でも有効である事は明らかなのだが、SPEED SPECTERという旅は真逆の方向へ進んでいる。

単純な言葉を選べば“ドサ回り”が一番似合うスタイルで行われているSPEED SPECTERの旅はBTCの様に大きな会場で行われているイベントであろうが変わりない。実際には海外での活動に際してエージェントやパトロネージの勧誘が無かったかと言えば、何件も交渉を行ってきた中でその都度断り続けてきて現在のスタイルになったと言うべきだが、その理由は「常にチャレンジャーで在りたい」という旅に於ける高蝶の至極単純な意志に基づいていて、「いつ何時、誰の仕事でも受ける」という仕事に於ける意志との鬩ぎ合いが交渉の場には立たせても最終的には独自のストーリーを選ばせる要因だろう。

「俺程度の奴が出来るなら他の誰でも出来る」というのが高蝶の口癖の様になっているが、ならば何故この旅のタイトルは「THE LIBERATOR」となっているのだろうか?解放者や革命家は他の者が出来ない事をしてみせるからこそではないのだろうか?そんな疑問が浮かび上がるが、その答は簡単だ。自ら行う事で可能である事を証明してみせるのが“可能性の解放”に繋がると信じているからだろう。「解放するには扉を開けなければならない。だが、出て行くかどうかは自由だ」SPEED SPECTERツアー「THE LIBERATOR」は多くの扉を開けて旅の幕を下ろした。

「何処かへ行き、何かを創る」 そのシンプルなコンセプトを軸に、クリエイター高蝶智樹が行うライブクリエイションツアー。
Loud Style Design、VANITAS、ANOTHER HEAVENといった自身が携わるブランドのスタイルや技術を用いるだけでなく、インプロヴィゼーションによってクリエイションを行うライブでは、日頃の創作活動では用いられる事の少ない技術や加工法が繰り出される事も多く、単なるライブクリエイションとは一線を画すものとなっている。
2008年のスタートから10年以上を経過し、コンヴェンションやエキシヴィジョンでの展開、対戦形式で行われるクリエイションバトル等、ツアーのコンテンツに多様化を齎しながらも、「何処かへ行き、何かを創る」というシンプルなコンセプトは変わる事無く旅は続いている。