CASE DIGRESS EXTRA RESULT
不確定要素が多いと選択に迷いが生じ易い。殆どの人が確実な方法を知りたがり確定した物何かを基軸に行動する。失敗の可能性や危険性も加味すれば、賢い選択とは不確定要素の少ない安全で失敗の可能性を低減させた方を選ぶと言う事なのは明白だ。そして、改めて言うまでもない事ではあるが、SPEED SPECTERの進んでいるベクトルは其の真逆になる。
危険や失敗を楽しむ姿勢が必ずしも良いとは言えない不確定要素に溢れた“旅”を根幹にし、インプロビゼーションによって短時間でクリエイションを行う。これもまた改めて言うまでもないだろうが、物創りには必要の無いアクションやファクターを糧にして続いているのがSPEED SPECTER。不確定要素に溢れた中でスピードを限界まで上げる様な行為は全く称賛に値しないのだが、それでもSPEED SPECTERはスタイルやベクトルを崩さず継続されてきた。称賛に値しないからこそ、やり続ける意味が在るとでも言いたげだ。
インスタグラムのライブ配信機能を用いて行われた「CASE: DIGRESS」が始めて行われた時は、本来のスタイルやベクトルを崩さずインストアイベントとは異なるイベントが可能か?も、見所だったのは確かだろう。加えて、現在は開放されていないFUCKTORY REFUSEからの配信形式である為、SPEED SPECTERの根幹である“旅”の要素が存在しない。旅によって獲得するヴィジョンやイメージが無いままに、インプロビゼーションが成立するか否か?でもあった。そうした“?”についての答は過去の「CASE: DIGRESS」で証明してきた通りではあるが、10日間連続で配信を行う“EXTRA”ではどうなるのか?全体の見所としては連日の中で変化するクリエイションにあっただろう。
ゴシックな表現やアンティークなレリーフ、流れを意識したカービングを殆ど行わずに2021年はクリエイションを行ってきた事が間違い無く影響していたであろう。初日から行われたクリエイションは、クリエイターである高蝶曰く「細密になり過ぎた」レリーフが施されたリングやフックについては2022年のリリースを待つ事となったが、リリースされたONE MAKEについても同じく空白期間が影響していた様に思う。
COVID-19の影響によってマンスリーで行われていたイベント「GALLERY MADE」が中止を繰り返し、ONE MAKEを制作してリリースする機会も逸していたフラストレーション。ANOTHER HEAVENのフェザーをベースにしたリングは、オーソドックスな和製インディアンジュエリーを踏襲しつつインプロビゼーションによる突発性と実験的要素を見せ。仮にGALLERY MADE等で純粋なANOTHER HEAVENのONE MAKEとしてだったら制作されただろうか?と、考える様な一面を見せている。
最終日に掛けて制作されたVANITASをベースにしたバングル。改めてSPEED SPECTERとVANITASの相性の良さを実感出来る仕上がりは、敢えて最終日前日の配信で行った制作を下ごしらえにした事で、インプロビゼーションが二段階になり間が空く事によって手の掛け方が変化する様が見て取れた。フラストレーションによる攻撃性がそのまま金属へダメージとして加工され、破られた羊皮紙と錆びた十字架に潜む暗示かの様にスカルとレリーフが組み合わされる。この表現は通常のSPEED SPECTERよりも「CASE: DIGRESS」となった際に生じる“間”がスピードとインプロビゼーションに影響したところが大きい。
観る側にとって、SPEED SPECTERの脇道で得られる収穫は制作時の視点が一番だろう。リアルなインストアイベントでは不可能な視点から制作を目にする事が出来るのは大きいと思う。それは「CASE: DIGRESS」が“EXTRA”として10日間連続で行われた事で、より顕著になった筈だ。では、SPEED SPECTERにとって、クリエイターである高蝶にとっての収穫は何であろうか?
空間・時間制限やカメラアングル、配信形式によるコミュニケーション。イベントによる決まり事と言う確定要素が増せばクリエイション側は不確定要素が増す。特にインプロビゼーションによる不確定さは決まり事の逆を行くのは明白だ。それでも、獲得出来る何かが在ったのなら更なる“EXTRA”が行われる事になるだろう。「CASE: DIGRESS EXTRA」でのクリエイションを見ると、そう思えてならない。
「何処かへ行き、何かを創る」 そのシンプルなコンセプトを軸に、クリエイター高蝶智樹が行うライブクリエイションツアー。
Loud Style Design、VANITAS、ANOTHER HEAVENといった自身が携わるブランドのスタイルや技術を用いるだけでなく、インプロヴィゼーションによってクリエイションを行うライブでは、日頃の創作活動では用いられる事の少ない技術や加工法が繰り出される事も多く、単なるライブクリエイションとは一線を画すものとなっている。
2008年のスタートから10年以上を経過し、コンヴェンションやエキシヴィジョンでの展開、対戦形式で行われるクリエイションバトル等、ツアーのコンテンツに多様化を齎しながらも、「何処かへ行き、何かを創る」というシンプルなコンセプトは変わる事無く旅は続いている。