BREWERY ART WALK

最悪のスタートを切ったツアー、「MTC」でのイベントから約1ヶ月。高蝶にとってはアメリカでの活動拠点となる「FAKTORY」が在るLAのアートディストリクト「Brewery Art District」で年に2度行われる“ART WALK”がツアーの第2ラウンドとなった。

一般にも開放され来場可能となる“ART WALK”というオープンスタジオの状態で催されるイベントだけに来場者も多く、ブースの設営から入念に行わなければならない点はあるものの、アメリカでの活動拠点としている言わばホームでのイベントは落ち着いた状態でのクリエイションを披露し易くなっている。(昨年の様な「CASE:ANOTHER HEAVEN」機材トラブル等は避けようがないが)

ブランドで括らないクリエイションが「HELL OR HIGH」ツアーの醍醐味としているが、何せ「FAKTORY」はANOTHER HEAVENの基礎となるアートをKOMYが生み出している空間でもあるだけに、今回のイベントでも来シーズンに本格的にリリースされる予定のANOTHER HEAVENの新たなグラフィックがTシャツとして用意されていたりと、どうしてもANOTHER HEAVEN寄りのクリエイションになりそうな予感もしていたのだが。

初日のクリエイションで見せたのは、流曲線やレリーフを彫って表現するでも無く、地金を激しく加工する事で退廃的なダメージを表現するデモ無く、SPEED SPECTERとしてのストレートでスタンダードな表現によるクロスリング。エングレーブやカリグラフィという彫るレベルの先に在る、彫り貫いて造形する、正に高蝶の基本がストレートに具現化される内容となった。

ツアーのスタートとなった「MTC」での失策。そのフラストレーションを払拭するかの様に彫り貫く事でのクリエイションの翌日。イベント二日目には少し珍しいタイプと言ったら良いだろうか、ベーシックなデザイン性なアイテムなのにライブでのクリエイションで出来上がったと言われると不思議な気持ちになるクリエイションが披露された。

「観てる側にとったら退屈だろうね」と高蝶が語るクリエイションだが、確かにライブでやるには向かない感じの地味で淡々とした作業によって構築されていくバングルは、グチャグチャと細かく彫ったり寄せ集めの様に貼付けて見た目だけを派手にしたメイキングが、シルバーアクセサリーに於けるクリエイションの本質では無いとでも言いたげなバランスの良さで構成されている。

その後に“オマケ”として彫られたスカルリングにしても、今回のクリエイションはベーシックとかスタンダード、そしてストレートである事にベクトルが絞られている様に感じるし、これがブランドに左右されないSPEED SPECTERのクリエイションなのだと言う事が如実に表れている。どのアイテムも、もう1手を何れかの方向性に加えればブランドのアイテムとしてのカラーになる。その点が見え隠れするところもまた面白い。

「SPEED SPECTERとしてのクリエイションとは?」の答がこれだけでは無いだろう事は、地金に対する高蝶の技術幅やアイデアからしても明白だが、少なくとも其の一端がストレートなカタチで表現された今回のアイテムが今後はどのブランドでどの様にベースとして活用されていくのか?が楽しみになってくる。そんな、シンプルにしてディープなクリエイティビティを発揮したイベントとなった。

 

「何処かへ行き、何かを創る」 そのシンプルなコンセプトを軸に、クリエイター高蝶智樹が行うライブクリエイションツアー。
Loud Style Design、VANITAS、ANOTHER HEAVENといった自身が携わるブランドのスタイルや技術を用いるだけでなく、インプロヴィゼーションによってクリエイションを行うライブでは、日頃の創作活動では用いられる事の少ない技術や加工法が繰り出される事も多く、単なるライブクリエイションとは一線を画すものとなっている。
2008年のスタートから10年以上を経過し、コンヴェンションやエキシヴィジョンでの展開、対戦形式で行われるクリエイションバトル等、ツアーのコンテンツに多様化を齎しながらも、「何処かへ行き、何かを創る」というシンプルなコンセプトは変わる事無く旅は続いている。