GARAGE REFUSE
日常と変わらないレヴェルでの旅。極力用意をしない状態でのクリエイションへの導入。「常在創作」と言う基本精神を掲げているのは高蝶が手掛けるLoud Style Designでの話だが、本人の生き方がそのままブランドに投影されているだけにブランドから解放された状態での旅となるSPEED SPECTERに於いてもそのマインドが変わる事は無い。
寧ろ日常の中に在る旅やフラットな状態からのクリエイションとなると、そうしたマインドはより色濃く滲み出るし、ライブでのクリエイションとなるとそれは、日常的に作業場で行われている原型制作を時間的に凝縮した状態である故にインプロビゼーションによる気紛れさも同時に強く押し出される事になるのだが。
SPEED SPECTERにとって2020年に入ってのファーストテイクはホームグラウンドの一角を担う「GARAGE REFUSE」で行われ、空間に並ぶANOTHER HEAVENを始めとしたブランドのアイテムやヴィンテージコレクションから予測されるクリエイションは、アメリカナイズされたデザインや様式美だったのだが、こうした予測は見事に裏切られる事になる。
イベントの前日までは高蝶自身もANOTHER HEAVENの流れを汲んだクリエイションになる気がしていたらしいが、実際は素材となる地金板を手にした瞬間にイメージが合致して取り組んだ結果が廃墟で崩れ落ちた何かの欠片の様な、悪い言い方をするならば(当の高蝶にとってはソコが狙いなんだろうが)アクセサリーとして身に着けられるカタチの鉄屑であろう。
しかし、捲れ上がった先端や腐食し錆が浮き出た表情で巻き込む様に鍛金で造形されたデザインでありながら、身に着ける際のバランスやチェーンの通し方はしっかりと考慮された構造になっている。こうした二律背反にも近い造形美がハイスピードで行われるライブ感こそがSPEED SPECTERの醍醐味だ。
昨年のツアー開始時から此処までのクリエイションだけを並べてみても、デザインに於ける脈絡の無さやテクニックの統一性を見出そうとして難しくなってくるのだが、こうした脈絡や統一性を掴ませない振り幅の大きさが本来のSPEED SPECTERとも言えるし、「何処かへ行き何かを創る」と言うコンセプトの先に新しい何かのカタチを生み出そうとする旅の軸は強固なまでに定まっている。
旅の軸が決まっているからと言っても少しの寄り道や休憩が有っても良さそうなものだが、2020年もSPEED SPECTERの旅は脇目も振らずに続きそうだ。
「何処かへ行き、何かを創る」 そのシンプルなコンセプトを軸に、クリエイター高蝶智樹が行うライブクリエイションツアー。
Loud Style Design、VANITAS、ANOTHER HEAVENといった自身が携わるブランドのスタイルや技術を用いるだけでなく、インプロヴィゼーションによってクリエイションを行うライブでは、日頃の創作活動では用いられる事の少ない技術や加工法が繰り出される事も多く、単なるライブクリエイションとは一線を画すものとなっている。
2008年のスタートから10年以上を経過し、コンヴェンションやエキシヴィジョンでの展開、対戦形式で行われるクリエイションバトル等、ツアーのコンテンツに多様化を齎しながらも、「何処かへ行き、何かを創る」というシンプルなコンセプトは変わる事無く旅は続いている。