CASE: VANITAS at LOOM OSAKA

「ブランドの再定義」という命題があるツアーの中で、VANITASのクリエイションは最も実験的である気がしてしまう。アンティークの様式美を主体としたデザインと、金属の肌や質感を活かしたデザインの両極を操りながら構築されているブランドのVANITASは、クリエイションの振り幅が異様に広いのが特徴ではあるが、今回のツアーで行われているクリエイションはその特徴を更に押し広げようとしている。

シルバーアクセサリー業界を見回してみると判り易く出てくるのが、レザーに対する一辺倒な向き合い方だ。インディアンジュエリーとウエスタンを組み合わせた所謂サドルレザーと呼ばれるタイプのレザー使いか、バイカーのスタイルにエキゾチックなレザーを合わせるのが主となる業界のレザーアイテムは、シルバーという素材の重さやデザインと相性の良さから“お決まり”の素材使いと様式美に留まっている。

少しシンプルでスタイリッシュな方向性を求めたレザーに目を向けてみても、顕著なのはハイブランドや老舗のスタイルに近付けたデザインが殆どで、レザーという素材その物の良さを丁寧に仕上げていく事が主軸になっている様に感じる。こうしたシルバーアクセサリー業界のレザーとの向き合い方は、ある種のセオリーとして出来上がっている物で否定される事も無く根付いているし、“定番”とはそうした物だろう。

しかし、定番やセオリーの良さは在っても表現は時代と共に進化していくべきだと体現し続けているクリエイターの高蝶にとっての「ブランドの再定義」とは、定番の先へと押し進める事が一つの目的なのかも知れない。

LOOM OSAKAで取り組んだクリエイションはイベント当日よりも前から行われ、前夜にCAMURO LEATHERの工房で革の加工を行う事から始まった。綺麗に整えて製品化する事が定番となっているコードバンに対してレザーその物に質感と表情が生まれるまで何度も加工を施し、ジッパーにも加工を施して金属パーツとマッチする彩りを加える。パターンやカットも高蝶が自ら行い、使い勝手についてのアイデアをカタチにする工程を踏んだ頃にはイベント開始時間になっていたという。

アイデアをカタチにするスピードと勢いはそのままイベントでのクリエイションに活かされ、“マトリョーシカクラッチ”という入れ子構造に近いクラッチバッグは、ワンメイクとは思えない完成度と纏まりを見せている。この質感や表現は、旅を続けている事でのインプットの多さとアイデアの多彩さに支えられているからだろう。

インプットの多さがアウトプットの量を決めるというのはよく言われる話だが、最も重要なのはインプットからアウトプットへと至る際のフィルターの質だ。同じ物を見ても誰もが同じ物を描かないし描けないのと同じ様に、インプットとアウトプットの間には個人というフィルターが存在し、その個人が持つ能力や性質が何を描き出すのかを決める。

VANITASというブランドの振り幅の広さとフィルターの柔軟性が実験的でありながらクオリティの高いクリエイションへと繋がり、新たな可能性をカタチに仕上げていた。

 

ご紹介をさせて頂いた作品につきましては、

LOOM OSAKAにてご購入が可能となります。

LOOM OSAKA

大阪府大阪市西区北堀江1-14-21大和ビル1F

TEL 06-6534-1630

http://loom-osaka.com

 

イベントが開催された「LOOM OSAKA」のBLOGでも別角度からイベントレポートが掲載されておりますので、合わせてご覧下さい。

LOOM OSAKABLOG

https://ameblo.jp/ksclothingminami/entry-12415101653.html

「何処かへ行き、何かを創る」 そのシンプルなコンセプトを軸に、クリエイター高蝶智樹が行うライブクリエイションツアー。
Loud Style Design、VANITAS、ANOTHER HEAVENといった自身が携わるブランドのスタイルや技術を用いるだけでなく、インプロヴィゼーションによってクリエイションを行うライブでは、日頃の創作活動では用いられる事の少ない技術や加工法が繰り出される事も多く、単なるライブクリエイションとは一線を画すものとなっている。
2008年のスタートから10年以上を経過し、コンヴェンションやエキシヴィジョンでの展開、対戦形式で行われるクリエイションバトル等、ツアーのコンテンツに多様化を齎しながらも、「何処かへ行き、何かを創る」というシンプルなコンセプトは変わる事無く旅は続いている。