ANOTHER HEAVEN in inspiration LA

SPEED SPECTERという旅にとっては既に恒例と言っても過言では無いだろうinspiration ( https://inspirationla.com/ ) への参加は、アメリカのカルチャーとヴィンテージに対して続けている挑戦の一端でもあるし、ANOTHER HEAVENというブランドにとってはファッション業界に向けて一年間の総決算的な展示の場でもある。アパレルパートの仕上がりが遅れている事や、アートピースの展示の都合から今回の展示は、用意していたシルバーアクセサリーの新作をメインに展示する事を変更し、VANSのカスタムやレザーパートと“FAKTORY”メイドのカットソーを強めに押し出す方向へ舵を切った。

「そんなに気負った感覚は無いけどね」ANOTHER HEAVENの根幹を生み出しLAのスタジオを主催するアーティストのKOMYは、その言葉通りラフな自分のままでリラックスしてブースに座っている。ANOTHER HEAVENを主軸にして展示されているこのブースは、inspirationがスタートした10年前にKOMYの招待ブースとして用意されたのだが、SPEED SPECTERで高蝶が参加してブースをシェアする事になってから徐々にANOTHER HEAVENを主軸とする方向にシフトした。そんな経緯もあってか未だにブース名は「KOMY」のままだ。

リラックスして来場者やスタッフ・気の知れた友人と談笑するKOMYと比べてチャレンジャー意識の強い高蝶はどうなんだろうか?特に気負っている様子や余裕の無さみたいな印象は見受けられない。「毎回の事だけど、クリエイションがやり難い空間だよ」展示に対してというよりも自分の作業をするうえでの居心地の悪さを克服するのが毎回の課題だと高蝶は語るが、そのストレスの分だけ空間の影響を受けるという意味でもあるようだ。今回も、ヴィンテージ感に溢れたクリエイションが成されていた。

使い古されて磨り減った25セント硬貨とルチャリブレのマスクをイメージしてのクリエイションは、ANOTHER HEAVENのファニーな部分を引き出しながらアメリカンカルチャーの中でもメキシカンの影響が随所に表れるイーストLAの雰囲気を感じさせる。ここ数年のinspirationでのクリエイションを振り返ってみても、イーストLAやギャング的なメキシカンがミックスされたデザイン傾向になっているが、これは高蝶がLAで滞在する場所がヒスパニックでゲトーなエリアである事がインプロビゼーションで表れているからなのだろう。

リングとしてバランスを取りながら細部までキッチリ彫り上げておいて仕上げの際にディティールを切り崩す様にスクラッチさせて使い古され磨り減ったかの様な加工を加えていく。高蝶が手掛ける中でも古びたアンティークやヴィンテージな仕上げを行うブランドではVANITASがあるが、“崩れゆく美学”がANOTHER HEAVENとは大きく違う。それが加工方法だけでなくデザインやバランス等、随所にANOTHER HEAVEN独自のスタイルとして表現されていた。

恒例行事の様な意識はKOMYにも高蝶にも無いのだろうがANOTHER HEAVENにとっては毎年の“答え合わせ”にも近い展示会であるinspirationで出した答が、次はどのような発展を遂げていくのか?それはANOTHER HEAVENを見続けている中で恒例のお楽しみだ。

「何処かへ行き、何かを創る」 そのシンプルなコンセプトを軸に、クリエイター高蝶智樹が行うライブクリエイションツアー。
Loud Style Design、VANITAS、ANOTHER HEAVENといった自身が携わるブランドのスタイルや技術を用いるだけでなく、インプロヴィゼーションによってクリエイションを行うライブでは、日頃の創作活動では用いられる事の少ない技術や加工法が繰り出される事も多く、単なるライブクリエイションとは一線を画すものとなっている。
2008年のスタートから10年以上を経過し、コンヴェンションやエキシヴィジョンでの展開、対戦形式で行われるクリエイションバトル等、ツアーのコンテンツに多様化を齎しながらも、「何処かへ行き、何かを創る」というシンプルなコンセプトは変わる事無く旅は続いている。