CASE: Loud Style Design at MTC

奇妙な場所だと人が感じるのは日常とは掛け離れた何かが行われていたり、通常では目にする事の無い光景を目の当たりにした場合だが、そうした意味で語るならばタトゥーコンベンションはとても奇妙な場所だ。会場に鳴り響くタトゥーマシーン独特の音、血とインクと薬品の臭い、並べられた独創的なアートピース、フィティッシュなショー。興味の無い人にとっては高いレベルで奇妙さを与えてくれるであろう光景が繰り広がられている。

SPEED SPECTERとして高蝶がタトゥーコンベンションに参加する様になってから10年が経過し、特にボストンでのコンベンション“BTC”とマサチューセッツでのコンベンション“MTC”には毎回招待されて参加している事もあってか、タトゥーマシーンの音が鳴り響く中で独りだけシルバーを彫るリューターの音を響かせるのが定番となっている。

SHOPやGALLERY等の空間で行われるSPEED SPECTERのクリエイションは、閉鎖された空間の中で火花を散らすライブハウスの様な趣があるが、不特定多数のオーディエンスやアーティストが参加するコンベンションで行われるクリエイションには、フェスで自分の実力を見せつける事でオーディエンスを惹き付けられるか?の勝負をする事になる。それ故に、日本国内で行われるSPEED SPECTERのイベントとは違いパフォーマンス性の高いクリエイションが必要になってくる。

MTCで繰り広げられたクリエイションは、パフォーマンス性が高くストレートにSPEED SPECTERのテクニックが伝わるスカルリングに絞られたが、これはLoud Style Designとしてはかなり変化球に思える内容だった。特に1ピース目のアラベスクともトライバルともつかないクレイジーパターンで構成されたスカルリングは、パフォーマンス性の高さを重視した結果に思える。

「まだイメージにデザインとテクニックが追いついていないから」という理由で高蝶はこのスカルリングをリリースするする気が無い様だ。だが、この曲線と流れのレイヤードで構成された三次元的な表現方法は前回のSPEED SPECTERでも披露されており、この表現方法を更にその先へと進ませようとしているのだろう。

「ブランドを再定義する」今回のツアーに於けるそのテーマはアメリカのタトゥーコンベンションでも変わる事は無く、むしろパフォーマンス性を高めなければならない状況が新たな挑戦に向わせている様にすら感じさせる。きっと、こうした旅の繰り返しがLoud Style Designに新たな要素を齎すだろう。

「何処かへ行き、何かを創る」 そのシンプルなコンセプトを軸に、クリエイター高蝶智樹が行うライブクリエイションツアー。
Loud Style Design、VANITAS、ANOTHER HEAVENといった自身が携わるブランドのスタイルや技術を用いるだけでなく、インプロヴィゼーションによってクリエイションを行うライブでは、日頃の創作活動では用いられる事の少ない技術や加工法が繰り出される事も多く、単なるライブクリエイションとは一線を画すものとなっている。
2008年のスタートから10年以上を経過し、コンヴェンションやエキシヴィジョンでの展開、対戦形式で行われるクリエイションバトル等、ツアーのコンテンツに多様化を齎しながらも、「何処かへ行き、何かを創る」というシンプルなコンセプトは変わる事無く旅は続いている。