INSPIRATION

 

好むか好まざるかは別にしても、展示会やコンベンションと言う場は基本的にセールスプロモーションの為に催されるし、それがパリコレのランウェイであっても収束するポイントがセールスになってくるのは、良くも悪くも必然と言って差し障りの無い現実だろう。故にクリエイターやデザイナーにとっての課題は、そうした必然的現実の中で如何に理想をカタチにするか?に尽きるのだと思う。

クリエイターやデザイナーが持つエッセンスは、ブランドと言うラベルを貼った瞬間からセールスに向けて走り出す事になるし、その中での楽しみとの出逢いや刺激が新たな着想へと繋がるという事実はある。しかし、セールスとプロモーションを繰り返す幾つものメーカーやブランドが、その道程で何時しかクリエイターやデザイナーのエッセンスを表層的なモノへと押しやり、セールスだけを加速させようとするのもまた事実である。それだけに、ブランドを持つクリエイターやデザイナーは展示会等の発表の場に於いても、常に鬩ぎ合いを強いられる事になる。

さて、前置きがかなり長くなってしまったが、SPEED SPECTERとしてINSPILATIONに高蝶が参加するのもかなりの回数になる。その時間の中で行われてきたクリエイションは、実験的な要素が色濃く表れながらカタチを成してきたのだが今回も違わず更に実験的なクリエイションとなった。

一旦はメキシカンスタイルなスカルリングを8割がた完了させたところから、ヴィンテージのTシャツ等で目にするプリントされたグラフィックがヒビ割れて擦れ剥げ落ちた様。その質感を再現する様にダメージを加えて表情を変化させていく。それも状態の良いヴィンテージでは無くてボロ着に近い質感のダメージをスカルリングとしてのバランスではギリギリのところまで攻め込む。

最初からダメージリングとして制作を進めるのでは無く、クリエイションの順序として一旦はそのまま仕上げればメキシカンなスカルリングとしてフィニッシュ出来る段階まで進めておいてからダメージを加えてのフィニッシュは如何にもSPEED SPECTERらしい手法だろう。INSPIRATIONという不特定多数の来場者が引っ切り無しに訪れる会場では解り易さとマジックが必要だし、パフォーマンスを兼ねてのクリエイションにしていく必要性がある。

とは言え、二日間に渡るINSPIRATIONでのクリエイションがワンアイテムに留まっている事実からも、ブランドの「ANOTHER HEAVEN」に対するプロモーションとセールスに力を割いている部分が伺えるし、SPEED SPECTERとしては会場との相性が悪かった事もあってか色々な意味でコンディションが良く無い中でのライブを強いられた感は拭えない。

セールスやプロモーションの重要性はブランドで活動する上で絶対に外す事の出来ない部分ではあるし、寧ろソチラの方にさえ力を入れていれば活動や継続出来てしまう事は、昨今のインフルエンサーが行っているハリボテ状態のブランドを見れば一目瞭然だが、セールスやプロモーションを牽引するだけのクリエイティビティを持つ事が出来るか否か?ただ単純に「創る」と言う事に特化した現在のSPEED SPECTERの旅は、そんな勝負をしているかの様だ。

 

「何処かへ行き、何かを創る」 そのシンプルなコンセプトを軸に、クリエイター高蝶智樹が行うライブクリエイションツアー。
Loud Style Design、VANITAS、ANOTHER HEAVENといった自身が携わるブランドのスタイルや技術を用いるだけでなく、インプロヴィゼーションによってクリエイションを行うライブでは、日頃の創作活動では用いられる事の少ない技術や加工法が繰り出される事も多く、単なるライブクリエイションとは一線を画すものとなっている。
2008年のスタートから10年以上を経過し、コンヴェンションやエキシヴィジョンでの展開、対戦形式で行われるクリエイションバトル等、ツアーのコンテンツに多様化を齎しながらも、「何処かへ行き、何かを創る」というシンプルなコンセプトは変わる事無く旅は続いている。