GALLERY REFUSE 01

シンプルに“創る”と言う事に特化したSPEED SPECTERの旅の中でも、折り返し地点になる「GALLERY REFUSE」でのクリエイションは、旅先で起りがちな問題が排除されるだけに高蝶の中に存在する“尖った感覚”が顕著に表れ易い。その自覚があるからか、例年と変わらずワンデイに集約せずにイベントの日数を多く設定してのホームグラウンドに於けるクリエイションは、それでもやはり“尖った感覚”が具現化されていた。

GALLERY REFUSE: DAY01

この数年取り組んでいるリリーモチーフのリングは、レリーフのレイヤードが際立ったデザインで構成されながらも、曲線が持つ流れの勢いを殺す事無くより強さを感じさせる。普段の旅先でのクリエイションならば、このワンクリエイションでフィニッシュとなり、残り時間と余裕次第でワンメイクを手掛けようか?と言うところだろうが、ホームでのイベントとなると当然の様に次に取り掛かる。

一端綺麗にレリーフを彫り出してから敢えてダメージを加えていく手法も、SPEED SPECTERでは10年近く続けているモノだが、注目すべきは今回のツアーがシンプルに物創りに偏った原因の一つでもあるクリエイションのスピードだ。こうしたレリーフで構成されたバングルを仕上げるのに、少し前なら5~6時間を要していたのが、この日は実に2時間と掛からずにフィニッシュしている。勿論、クリエイションとして詰めに詰めて細密さや細部に拘り続ければ時間は幾らでも掛かるものだが、それはライブでのクリエイションでは無くデザインも大きく異なる事になるのでスピードの比較対象にならないだろう。

インプロビゼーションによるライブクリエイションである以上、重要なのは掴んだ一瞬のイメージを如何に具現化し表現してみせるか?になる。当然ながらソコに必要なのは技術とアイデアと同じレベルのスピードと言う事になる。のだが、それにしてもレリーフや流れの細かさに加えてテクスチャーの手数も更に増えた中でスピードも増しているのは、“尖った感覚”が迷いを無くすからだろう。

 

GALLERY REFUSE: DAY02

反省の意識や課題を設ける意識がクリエイションに於いて高蝶には在るのかどうか不明だが、初日の尖り方に対して創り出すアイテムやテクニックのカテゴリーを変化させる事で、自分自身の感覚に対してのアプローチも必然的に変化させようとしている様が見受けられた二日目のクリエイション。

バックルのカスタムやベースが在ってのワンメイクであればまだしも、地金の板から独特の形状を持ったバックルへと創り上げる行為は、他のブランドを見回してみてもイベントに於いて行われる事は皆無に近い(SPEED SPECTERでも過去に数回のみ)のだが、皆がやらない理由として大部分を占めるのが、クリエイションに掛かる時間と労力であろう。

「二日目だから時間と労力費やしてもいいだろ」と、打ち出しに近い鍛金の技法でバックルの形状を創り出し、錆びて腐食していく金属の肌を表現しながらバックルとして機能する可動部分を造り込む。アプローチを変えて感覚の尖った部分を削り落とす心構えが高蝶にはあったのかも知れないが、その削り落とさんとする行為自体が尖り切っていて、本末転倒となっている気がしてならない。しかし、クリエイションを観ている側としては、その鬩ぎ合いと労力がライブで行われる事こそが楽しいものだ。

「準備をしない旅の気楽さと厳しさ」そんな最中での折り返し地点として、GALLERY REFUSEで開催されるSPEED SPECTERのイベントは、シンプルであるが故にアプローチを変えるだけで今までに無い側面を見せてくれる。其れをシルバーアクセサリー業界に於けるイベントでは異端とするかライブに於ける正道とするかは、イベントが多発し発展してきた現在では判断が一筋縄ではいかないのだろうが、「そんな事はどうでもいいことだ」と切り捨ててしまう程のクリエイションの強さが此処には存在していた。

 

「何処かへ行き、何かを創る」 そのシンプルなコンセプトを軸に、クリエイター高蝶智樹が行うライブクリエイションツアー。
Loud Style Design、VANITAS、ANOTHER HEAVENといった自身が携わるブランドのスタイルや技術を用いるだけでなく、インプロヴィゼーションによってクリエイションを行うライブでは、日頃の創作活動では用いられる事の少ない技術や加工法が繰り出される事も多く、単なるライブクリエイションとは一線を画すものとなっている。
2008年のスタートから10年以上を経過し、コンヴェンションやエキシヴィジョンでの展開、対戦形式で行われるクリエイションバトル等、ツアーのコンテンツに多様化を齎しながらも、「何処かへ行き、何かを創る」というシンプルなコンセプトは変わる事無く旅は続いている。