GALLERY MADE -ANOTHER HEAVEN-

ブランドのヒストリーは時にブランド自身を苦しめてしまう。幾多のブランドが乱立し、各々のスタイルで展開していき淘汰されてを繰り返すが、どのブランドでもキャリアを積んで長いヒストリーを刻めば出てくるのが、自身のヒストリーによって定義され狭まっていくブランドとしての振り幅だろう。この問題に有効な解決策は多くのハイブランドが示している。

シーズンコンセプトやデザイナーの交代劇によって、ブランドをフレッシュな状態に保ちつつコラボレーションやヒップに映る演出を施す。スタンダードな部分はブランドアイコンを配したキラーアイテムとしてリリースする事で顧客の納得を促しブランドのカラーを残し続ける手法は、こうして文字にしてしまえば簡単そうだが、実際はクオリティとスピードを持ち続けるのに大きな労力と資本が必要となる。企業体で無い個人のクリエイターが行うには少々どころではない無理が生じるだろう。

ANOTHER HEAVENもまた10年を超えるヒストリーを持ったブランドだけに、紆余曲折を経て辿り着いたDIYによるシンプルなガレージスタイルは、一時期の多様化したアイテムカテゴリーを絞る事によるブランドの継続を選択させていたが、この2年余りで“FAKTORY”というチームでの展開に切り替わる事で迎えたのはブランドとしての新たな側面。

2018年に於けるANOTHER HEAVENのアクションは、ブランドを再定義するというよりも新しいブランドを構築するかの様な勢いで新作をリリースし、One Makeというカテゴリーを得たシルバーアクセサリーでは、実験的なクリエイションや試験的に施されるカリグラフィーのエングレーブ等、ブランドを大きく発展させる事となった。

アパレルやシルバーアクセサリーのカテゴリーが発展するのに呼応するかの如く、レザーを組み込む事によってスニーカーのカスタムやスタッズのパターンも新たな領域へと踏み込み始めた。KOMYのアートに端を発したANOTHER HEAVENというブランドが、こうした発展を遂げている背景には先述した様に“FAKTORY”というチームプレイでのクリエイションが大きいが、アイデアを却下するよりも先ずはカタチにしていくチームになった事で高くなった自由度が良い効果を生み出しているからだろう。

今回のGALLERY MADEスタイルで行われたイベントにしても、ゲストにCAMUROの村田氏を迎える事で、スニーカー用のレザーアタッチメントとして用意されたアイテムに、スタッズワークでの即興のセッションが行われる様にOne Makeが生み出されていった。

ブランドとしてのヒストリーは確かに重要だが、ヒストリーが生み出した需要に縛られる事で新しいアイデアに振り切れなくなってしまうジレンマは、やがてブランド自身を浸食し形骸化させてしまう事も少なく無い。2018年という時間の中でANOTHER HEAVENは大きく発展を遂げ、「ブランドを再定義する」というSPEED SPECTERの旅によって、2019年も新たなヒストリーを確実に刻んで行くだろう。

「何処かへ行き、何かを創る」 そのシンプルなコンセプトを軸に、クリエイター高蝶智樹が行うライブクリエイションツアー。
Loud Style Design、VANITAS、ANOTHER HEAVENといった自身が携わるブランドのスタイルや技術を用いるだけでなく、インプロヴィゼーションによってクリエイションを行うライブでは、日頃の創作活動では用いられる事の少ない技術や加工法が繰り出される事も多く、単なるライブクリエイションとは一線を画すものとなっている。
2008年のスタートから10年以上を経過し、コンヴェンションやエキシヴィジョンでの展開、対戦形式で行われるクリエイションバトル等、ツアーのコンテンツに多様化を齎しながらも、「何処かへ行き、何かを創る」というシンプルなコンセプトは変わる事無く旅は続いている。