ANOTHER HEAVEN at Brewery Art Walk

ツアーと銘打ってのイベントの本質的な“旅”の部分を形骸化させてしまっているのを少なからず現在のシルバーアクセサリー業界に感じてしまうのは、音楽業界と同じ様に“お決まりのパターン”が増えたからかもしれない。パターン化するという言葉に良く無い印象を持つ方もまた少なからずだろうが、実際のところ人は“お決まりのパターン”が好きなものだ。

ラスベガスのショーやブロードウェイ、映画業界に於いても幾つかの優れたパターンが存在し、人々はソレを楽しむ事に対して何ら違和感を持たないし、一つの業界の発展には必ずパターン化されたというかセオリーが存在するものなのだから、シルバーアクセサリー業界で行われているツアーに“お決まりのパターン”が増えている事は業界が発展し成熟へと向う道としては正しい。

しかし、ご存知の方も多い様にSPEED SPECTERというツアーは“旅”という要素がかなり強くパターンやセオリーを刷新するスピードが速い。今回のツアーでブランド毎のスケジュールを組む手法にしてもそうだが、SPEED SPECTERにとってもまた、かなり異質な旅となっている。

異質という視点で話を進めると、このCASE:ANOTHER HEAVENでLA Brewery Art Walkに参加する事も日本で展開しているANOTHER HEAVENだけを見ている人にとってはかなり異質に感じるかもしれないが、イベントが行われたLAのFAKTORYこそがANOTHER HEAVENにとってはホームであり、このイベントはブランドにとっての一時帰還みたいなものだ。

つまり、SPEED SPECTERとして動いているクリエイターの高蝶にとっては旅先になるのだがブランドにとっては帰還となる、何だが少し脳内が困惑する異質さを持っている感じがしてしまうが、会場になっているFAKTORYに入ればそんな困惑を吹き飛ばす充実した空間が用意されていた。

改めて、ANOTHER HEAVENというブランドは、アーティストであるKOMYの生み出すアートをベースにしている事を体感出来るのがこのイベントだろうし、FAKTORYという空間とチームのノリを強く感じるのもBrewery Art Walkならではの楽しみの一つと言えるだろう。何せ日頃はアトリエとして活動拠点になっている空間を構築し直してイベントを行っているので、生み出される現場での生活感や空気感が如実に伝わってくる。そう言った意味でもやはりFAKTORYがANOTHER HEAVENにとってのホームなのだ。

今回のイベントではKOMYのアートとANOTHER HEAVENに加えて、不定期でチームに参加しているBLAKE INGRAM DESIGNも参加し、TNSKは常設というカタチで自然と参加する運びになっていたが、そんな中でのクリエイションはマシントラブルによって仕上げ半ばで初日を終了し、二日目には工業用ドリルと手で鑢がけする事で仕上げるという“旅”ならでは起る要素が良くも悪くも出ていた。

「新たなベースとしてのクリエイション」を念頭に置いてのインプロビゼーションが普段とは様相の違うクリエイションになったのもまたホームならではだったし、ANOTHER HEAVENというブランドの一時帰還に相応しい内容が、この先に続いていく“旅”の中でどう発展させていくのかが課題であり楽しみでもあるが、先ずは順次リリースされていくであろうANOTHER HEAVENの新作に期待して頂きたいところだ。

「何処かへ行き、何かを創る」 そのシンプルなコンセプトを軸に、クリエイター高蝶智樹が行うライブクリエイションツアー。
Loud Style Design、VANITAS、ANOTHER HEAVENといった自身が携わるブランドのスタイルや技術を用いるだけでなく、インプロヴィゼーションによってクリエイションを行うライブでは、日頃の創作活動では用いられる事の少ない技術や加工法が繰り出される事も多く、単なるライブクリエイションとは一線を画すものとなっている。
2008年のスタートから10年以上を経過し、コンヴェンションやエキシヴィジョンでの展開、対戦形式で行われるクリエイションバトル等、ツアーのコンテンツに多様化を齎しながらも、「何処かへ行き、何かを創る」というシンプルなコンセプトは変わる事無く旅は続いている。