DIGRESS take05 RESULTS

何を期待するかによって物事の受け止め方は変化する。同じ事象を目にしたとしても期待通りであった者の心象と期待とは違った者の心象は大きく違う筈だ。これは個々人の性格の違いだけでなく、一個人の中でも本人が意識しているよりも速い速度で変化し続け日や時間によってすら感じ方や受け止め方は変化する。人の持つ揺らぎとは常にそうしたものだし人の曖昧さもまた常であるが、その揺らぎの幅を個の中で1本のベクトルとして収束させれるか?もまた常に人には問われている。それが何かを創り出すクリエイターとなれば尚更だ。

SPEED SPECTERに期待されている物創りとは何だろうか?と考えてみるに、多くはクリエイターである高蝶が展開するブランドに繋がる表現やデザイン上での物創りになるだろうし、近年のSPEED SPECTERでも敢えてそうしたCASEを設けてツアーやイベントを行ったりもしていた事は確かだし、インプロビゼーションによって創り出されたアイテムが展開しているブランドのピースとして発展していく様を見る事は少なからず在っただろう。

CASE: DIGRESSとして配信形式のライブクリエイションへと場を変えて以来、SPEED SPECTERはそうした期待に対しては裏切りを続けてる様に映るし、一目で伝わるモチーフや流れを敢えて少なくしている様がtake03からは更にその色合いを強くしていると今回のtake05でのクリエイションが確信させる。

DIGRESS take05でのライブクリエイションが始まった際に、先ずは彫り始めたシルバー地金の欠片が流れを生んでいく中では、過去のクリエイションの様に何処かしら高蝶が手掛けるブランドのカテゴリーに収束される事を予感させたが、真鍮の地金板を加工し始めたタイミングからクリエイションの流れは完全に変わり、鍛金と彫金を織り交ぜたどのブランドカテゴリーにも属さないSPEED SPECTERならではのクリエイション完了に至った。

スカルやクロス等のモチーフ、アラベスク等の意匠を用いた流れの表現を得意とする高蝶が別軸のセンスとして持っている得意な分野が、今回のクリエイションで感じる事が出来る金属自体をどう加工すると高い次元でアイテムとして結実するか?であって、其れは高蝶が展開するブランドのアイテムを創り出す下地となる技術の部分でもある。

クリエイターであると同時にクラフトマンでもある高蝶がSPEED SPECTER CASE:DIGRESSでパフォーマンスして見せようとしているのは、自らの技術に於ける根幹の部分からなるカタチであり、ライブ配信形式イベントの特徴を踏まえてのアクションと言うところだろうか。

代表的なモチーフや流れによるクリエイションを観る側は期待するかも知れない、或いはそうしたクリエイションがCASE:DIGRESSでも行われる事があるかも知れない。そうしたアクションが観る側の期待を裏切るカタチだったとしても、SPEED SPECTERは揺らぎを振り幅としたライブクリエイションで1本のベクトルへと収束させていく。

 

「何処かへ行き、何かを創る」 そのシンプルなコンセプトを軸に、クリエイター高蝶智樹が行うライブクリエイションツアー。
Loud Style Design、VANITAS、ANOTHER HEAVENといった自身が携わるブランドのスタイルや技術を用いるだけでなく、インプロヴィゼーションによってクリエイションを行うライブでは、日頃の創作活動では用いられる事の少ない技術や加工法が繰り出される事も多く、単なるライブクリエイションとは一線を画すものとなっている。
2008年のスタートから10年以上を経過し、コンヴェンションやエキシヴィジョンでの展開、対戦形式で行われるクリエイションバトル等、ツアーのコンテンツに多様化を齎しながらも、「何処かへ行き、何かを創る」というシンプルなコンセプトは変わる事無く旅は続いている。