VULGAR DISPLAY OF POWER

想定する中でも最もストレートでスタンダードな始まりを見せたSPEED SPECTERのクリエイション。幕開けとなったツアーの一発目である7月21,22日のCASE: Loud Style Design at ROYAL FLASHでの3アイテムを紹介する。

フェーズを変える事に対する懸念はどんな時でもあるものだが、CONVERSEのカスタムやBACKBONEとのコラボレーション等の、綿密な打ち合わせと計算が為されて構築されたアイテムが並んだROYAL FLASHでのディスプレイを目にすると、クリエイションでSPEED SPECTERの持ち味である“インプロビゼーション”が失われてしまうんじゃないか?と妙な不安が浮かんだが、クリエイション幕開けの7月21日が訪れてみれば、どうやらソレは懸念に過ぎなかった。

ベースリング01を使用してSPEED SPECTERにとっては基本技術中の基本である“ただ彫るだけ”で造形を行ったスカルリングは、高蝶曰く「ロイフラの雰囲気に合わせた劇画タッチ」なラフでダークな印象を残すスカルからアラベスクへと流れていく。

1発目はお約束的な部分もあるだろうが、先ずはインプロビゼーションでSPEED SPECTERらしさを発揮してのクリエイションというところだろう。

続いてはLoud Style DesignのOne Makeが制作された。最初のクリエイションとは対照的にラフさを出さず、銀板からソードの部分を切り出しシンプルでエッジーなパートと、細密で印象的なエンブレムと合わせたLoud Style Designならではのコントラスト。

バチカンの代わりにボールピースを組み合わせてバランスを取りにくる辺りに、スタイリングを想定しながら制作しているのが伺える。このスタイリングを想定してのOne MakeもまたLoud Style Designならではだろう。

翌日のクリエイションでは革新性と伝統が入り交じり、新たなピースが創り出される事となった。「このフェイスがLoud Style Design」と言いたくなる様な睨みを利かせた目つきに不敵な口元を携えるスカルは、ヘヴィでありながら流れるようなフォルムに、力強さとダークな印象を兼ね備え“不良文化としてのスカル”を如実に表現している。

写実性や細密さが押し出されたスカルが主流になりつつあるシルバーアクセサリーシーンで、スカルの持つ伝統的“不良性”を確立しているブランドを数えると片手で足りてしまうぐらいになった現在では、元々は主流だった筈のVulgarなフェイスのスカルは減少しているのだが、このクリエイションは「ブランドを再定義する」という今回のツアー意図に深く根ざしてのものだろう。

 

顧客からのオーダーでカスタムやエングレーヴを行い、ミート&グリードがシルバーアクセサリーイベントの主軸となっている昨今に於いて、相変わらずの“ストロングスタイル”で幕を開けたSPEED SPECTERのクリエイションだが、そのスタイルはビジネス的な観点で言うならば“愚直”に近いやり方だ。

だが、しかし。「何処かへ行き何かを創る」というシンプルなコンセプトに愚直なまでに拘る事が、何処へ行ってもクリエイティビティを最も発揮する手段だと訴えかけてくる。

「何処かへ行き、何かを創る」 そのシンプルなコンセプトを軸に、クリエイター高蝶智樹が行うライブクリエイションツアー。
Loud Style Design、VANITAS、ANOTHER HEAVENといった自身が携わるブランドのスタイルや技術を用いるだけでなく、インプロヴィゼーションによってクリエイションを行うライブでは、日頃の創作活動では用いられる事の少ない技術や加工法が繰り出される事も多く、単なるライブクリエイションとは一線を画すものとなっている。
2008年のスタートから10年以上を経過し、コンヴェンションやエキシヴィジョンでの展開、対戦形式で行われるクリエイションバトル等、ツアーのコンテンツに多様化を齎しながらも、「何処かへ行き、何かを創る」というシンプルなコンセプトは変わる事無く旅は続いている。