STRANGE FREAK DESIGNS 20th Anniversary

ストレンジでフリーキーなデザインの物創りを続けてきたブランドの20周年に寄せて。

インディペンデントな物創りに於ける初歩的なプロセスというのは例えばこんな感じだ。何か自分がカタチにしてみたいと思う目標を自由に設定し創作過程・実作業での困難さを経て想定していた「あんなカタチ」へと至らせる。

納得のレベルは自分の充足感次第で決まり、想定していた不明確な「あんなカタチ」に出来ているか否かを判断するのも視野の狭くなっている自分でしかない。要するに完成度よりも完成させれる喜びの方が勝る状態であって“着想の起点”も朧げに浮かぶ「あんなカタチ」を具現化させてみたいという衝動的な部分が強いものだ。

多くの創り手がインディペンデントな物創りを経て自分のベクトルを見出し、必要となる技術やセンスを磨きながらマーケティングやプロモーションを組み立ててブランドへと至りユニバースを広げていくが、その最中で起り易いのは“着想の起点”が変化していく部分だろう。

初歩的なプロセスの中では朧げであった「あんなカタチ」は、ターゲットやコンセプトを明確にした言わば創作の目的意識が我欲から乖離する事で定まり始める。購買層を考慮した中で行う創作からは独りよがりなユニバースに留まっているだけの着想よりも、対象が存在する事で価値観の共有に近い種類の着想が生じ始める。

創り手はこのフェーズに至って次の葛藤へと進ませられる事になるのだが、それは必ずしもと言うより他所と自分とを比較する事や、ブランドと言うユニバースと個人としての自分の理想との差異によって生まれる葛藤で、つまりはクリエイションとビジネスの鬩ぎ合いによるストレスが原因だ。出来る事ならばこのストレスを避けてクリエイティブな現場に従事し理想的なビジネスの中で成長したいと願ってしまうのは当然の事だし、実際にこのフェーズになってバランスを崩してしまう創り手やブランドも少なく無い。

ところが、この葛藤こそが創り手を次のレベルへと引き上げる試行錯誤へと向わせ、可能性の模索によって新たなマーケットの開拓やテクニックとマテリアルの探究を行うに至る。こう考えるとクリエイションやブランドは生物進化にも似た道程を辿っている事が感じられるだろう。環境への順応と劇的な変化への対応が生命体を様々な方向へと分岐させ生き残る為に最も適した形態へと進化させる。

当然だが創り手やブランドも生物進化と同じく淘汰を経る。ただ生物進化よりも人間社会の経済の方が少し複雑なのは、他者による延命やベクトルを変化させる事で限定的な生息へと至る道も残されている点だろうか。例えはインディペンデントなスタートを切った創り手やブランドが買い取られたり出資を受ける事もあるし、別の仕事をしながら趣味の延長に近いレベルでブランドを続ける場合もあり、残念ながら自己資金でフラグシップショップを展開しながら続けていく事の方が少数派になっているのがシルバーアクセサリー業界の現状だろう。

もう一つのベクトルとして存在するのがクラフトやアートへと強く舵を切ったパターンだ。ブランドと言うよりはクラフトマンやアーティストとしての創り手を自認して、ビジネス的な要素をアウトソーシングする事や極端に新作のリリースを遅延させる事で、ある一定のマーケットとレベルに留まり続ける。このパターンになるとブランドと言うよりは作家的な要素が強くなってくるが、それも一つの生き残り方だ。

ブランドとして創り手が生きていくにはブランディングと称される様な労力が必要になるし、目の前にいるお客さんを満足させる為のクリエイションと個人としての理想や欲求から来る“着想の起点”を何処の終点に至らせるか?が常に付いて回るし、我欲だけを走らせていてはブランドは成立させられない。

創作の世界と一纏めにしてしまうには幅が広いが、シルバーアクセサリーに於いては誰かが身につける物となる基本軸は崩す事が出来ないので、幾らアーティスティックな意識で語ったところで人体を超越する事は出来ない。もしその基本軸を度外視するならば、それは既にシルバーアクセサリーやジュエリーではない創作物という事でしかないし、更に踏み込んで言うならば日常使いや着用を目的とするか否かの部分が出てくる。

創り手にとってこのフェーズで生じる葛藤を乗り越える事はあまり難しく無い。技術やセンス、ブランドのレベルが安定して来た段階での葛藤はある種タイミング的な選択でしか無くなり、日常的な着用の物創りでもアーティスティックな創作でも行き来がし易くなるフリースペースの様なものだからだ。

朧げで脆弱さを伴う自由であった筈の“着想の起点”は既に創り手個人のものでは無くなり、ブランドというユニバースを共有してくれる人達を鑑みる事によって変化し明確になる。「あんなカタチ」としてしか想定出来なかったカタチは技術とセンスの向上によってハッキリと提示される「このカタチ」を生み出し、創り手個人の脆弱だった自由さはコントロール可能なフリースペースとしてクリエイションの中に収められ次の可能性を生む。

机上の孤独さの中で、自己の理想と衝動だけを頼りにインディペンデントな始まり方をした創り手は幾多の困難や葛藤を繰り返しながらブランドと一体化していくものだし、時を経て振り返ってみれば始まりだった“着想の起点”が現在へと繋がっている事が何時でも理解出来る。

20年前のシルバーアクセサリー業界では体系が出来上がっていなかった、ストレンジでフリーキーなデザインの物創りを古谷尚人という創り手がブランドとして確立し進化させた。その歴史に触れてこれた事はとても光栄だ。

STRANGE FREAK DESIGNS20年の歴史に感謝と、これからの歴史に期待を込めて。

 

SILVER GEEKS: https://www.stfreak.com/geeks/

STRANGE FREAK DESIGNS: https://www.stfreak.com/

 

人が動き続けるのに睡眠と食事が必要である様に、毎日の暮らしを行うには住居が必要になる。しかし、それだけで目紛しい世の中をタフに生きていけるだろうか?

新しい何かを見つける為の刺激や、自分らしくある為のスタイル。何か行動を起こす為には心に響く燃料が必要だ。音楽やアート、嗜好品やファッション、誰かとの時間やスポーツ。そして、旅とクリエイティブ。
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