RESONANCE:04 TAKESHI KAJI (THE VALVES) Vol.01

何かを創り出す者が持っている美学や哲学は、他の創り手と交差する際に不協和音の様でいて共鳴する旋律を奏でる。その交差するポイントで響く何かを探る高蝶智樹によるクロストーク。第四回は10月10日にREFUSE20周年のプロジェクトとしてコラボレーションアルバム「REFUSE」をリリースした「THE VALVES」の鍛冶毅をお迎えして、長い付き合いの中での変わらない二人のクリエイティブに対する拘りや、アルバム制作の苦労話や裏側をたっぷりと語って頂きました。長時間の対談となりましたので、前・後編に別けてお送り致します。後編はコチラ「RESONANCE:04 Vol.02」

高蝶:初めて会ったのは雑誌の撮影だったよね。今はもう無くなっちゃったけど「COVER magazine」の編集長・松下さんが、打ち合わせの時に鍛冶の前のバンド「THE RODEO CARBURRETOR」の曲をラジオで聴いたか何かで「凄いバンドがいるから今コンタクト取ってるんだけど、高蝶君も絶対に好きだと思うから」ってわざわざ俺の分のCDまで買ってきてくれて。

ウチの「Loud Style Design」のページ組むから「モデルで使いましょう!!」って。それで撮影した時が初対面か。ロデオのファーストアルバム「BLACK LUSTER SONGS」ぐらいの頃だから・・・何年前だ、アレ?

 

鍛冶:2005年とかそれぐらいですよね。もう15年ぐらいの付き合いになる。当時、「COVER magazine」編集長の松下さんが話の分かる人で色々と紹介とか誌面に出してくれて。ロデオが活動後期ぐらいに「コレが売れなかったら、日本はおかしい!!」ぐらいの事を誌面で書いてて結構なプレッシャーになっちゃったんですよ。

 

高蝶:昔は鍛冶がよく俺に「高蝶さん。俺ら絶対に売れますから」って言ってお願い事をしてくるってのがあったねぇ。今じゃ笑い話だけど。

 

鍛冶:最初はお客さんが0人とかの状態でライブやってたロデオが、いきなり事務所が介入して、いきなり「メジャーでやるぞ」ってなって、いきなりビジネスに切り替わって。ぶっちゃけて言うと、どうしていいか判らない状態で「そんなに売れなくちゃいけないの?」「何で売れなくちゃいけないの?」ってなって、でもやっていくと解ってくるのが、SONYの社員の人達も事務所のスタッフ達も、俺らで稼いで生活してっていうのが何となく解ってきて。「あっ、売れるって言うのは大切な事なんだ」みたいにはなりましたね。

 

高蝶:結局は創り手側って誰かの飯の種な訳でさ。残念ながらメジャーでやってくって事は音楽でもファッションでも同じで、そうならざるを得ない。

 

鍛冶:俺は結構そこのプレッシャーっ言うか「なるほどな」って、よくプロの人達が雑誌とかのインタビューで言ってる「売れなきゃいけない。売れてこそ」みたいなのが、「こう言う事なのか」って具合に解りましたね。

 

高蝶:売れなきゃいけないってのと同時に、売れたら王様になっちゃうのも解るじゃない?だってそのミュージシャンが頑張って、当然ながら周りのスタッフも努力するんだろうけど、頑張って皆の飯の種になってる側はね。そりゃあある種の王様扱いみたいにして貰わないと本人も周りもやり難かったりもするじゃん。

 

鍛冶:でも、ロデオの頃に高蝶さんに出逢ってから、一向にその気配が見えなかったんですよ高蝶さんには。「この人、売れる気あるのかな?」ぐらいに感じてた。要はさっきの話みたいに、どれだけメイクマネー出来るのか?ってのが皆は重要で動いてるし宣伝して有名になってってやってるのに、REFUSEに遊びに来ると「鍛冶、それ気に入ったんなら持ってっていいぞ」って、お金とか宣伝とかの要素も求めないし、この人は信用出来るって思いましたよ。

それまでは、「メジャーでデビューした」ってなったら「誰だよお前?」みたいな奴等がグワーって寄ってきて耳障りの良い事しか言わないし、それでメジャーの契約切ったら面白いぐらいサーって引いていって、そんな奴等は誰もいなくなって。「スゲーな、人間って・・・」思った。

 

高蝶:そーいうもんだよね。ファッションの業界でも同じだもん。メディアに露出して売れてる時や流行ってる時、大手と取り引きしてたり有名な売り場で取り扱われてるとか売れてるミュージシャンと付き合いがあるとか、そんなクダラネェ理由だけでクソみたいな奴等がバンバン寄ってきて、メディアにも出なくなって売れても無いなら、そーゆー奴等はスーっと引いていなくなる。同じだよアートとか他の業界でも。

鍛冶:ちょっとパーソナルな部分に突っ込んだ話させて貰っていいっすか?高蝶さんて相手によって話す事とか話し方を器用に変えたりします?

 

高蝶:目上の人とか女性や子供相手だったら態度や話の内容は変わるよ。若い頃に、目上の人へは礼儀を欠いちゃいけないって世界で生きてた時期があるから、そこら辺は気にするかな。同じ創り手仲間や業界の年上とか目上の人にもタメグチで話すし不遜な態度をしてても、ソコには確実に俺なりの尊敬があってしてる事だし、ソレは相手に伝わってるから許されてるんだろうしジョーク言ったり弄ったりも尊敬が相手に伝わってなかったら嫌われるだけじゃん。不遜な態度でいる以上は、やる事はしっかりやってるから許して貰えるんだと思ってる。逆に付き合いが深く無い程、礼儀正しくなっちゃうかな俺は。

 

鍛冶:俺と高蝶さんって、ずっとセクシャルなプライベートとか女性遊びの話とかしないで15年ぐらい付き合ってきたじゃないですか。言ったらエグイぐらいクリエイティブな話ばっかりしてきて、二人で会ってもセクシャルなジョークとか全く無くて。その頃はあんまりにも真剣な話ばっかりだから「この人ってゲイなんじゃねぇかな・・・」って思っちゃう時もあって。女っ気のある話って俺等の間で一切しなかったと思うんですよ。

 

高蝶:そうだねぇ。鍛冶とはそーゆー話をする事って少なかったし、ロデオの頃は事務所とかもあって、二人でよく会ってたのって後期の方だしね。

 

鍛冶:でも、最近は「THE VALVES」で皆で会って遊んで貰う事が多くなって、会話の種類が増えたじゃないですか。それで「あっ、この人はストレートなんだ」ってのと、あとはインスタで「HEAT TALK」とかやり出したの見てて、違う意味で「やる事はやってんだな」って。

 

高蝶:昔は“どうにか売れて欲しい”って気持ちも強かったから鍛冶とはクリエイティブな話とかばっかりしてたよね。ロデオの頃の初期は他のメンバーも一緒に会ってたりして、あんまり遊びの話とか女性関係の話にはならなかったし。後期になると鍛冶と二人で会ってたけど、お前の愚痴聞きながらやっぱりクリエイティブな話になってたし。セクシャルな話をする必要も時間も無いからしてなかっただけかな。

 

鍛冶:そうなんすよ。クダラナイ話とか全くしてなくて「鍛冶、築地に寿司食いに行くぞ」とか言われて、普通にお食事デートみたいになってて。だから、話す相手によって内容とか変えてんのかな?と思って。

 

高蝶:う〜ん。例えばだけどヤフミ(LAID BACK OCEAN)とかとも同じ様な感じだよ。女性の話とかを全くしない訳じゃないけど、精神論とか哲学的な内容のトークばっかりで、結局はクリエイティブに繋がる事になる。でも、誰か違う男が一緒にいたりで多人数になってくるとセクシャルなトークやクダラナイ話が増えるかな。多人数でエグイぐらいの精神論とかクリエイティブな話ばっかりだと空気が重くなるじゃん。

 

鍛冶:今回、JEANさんとかアキラ君が入った事によって色々と話の種類が増えたって事っすね。

 

高蝶:元々、ゲスい下ネタとかは好きじゃなくて。性に対する考察とか心理学が好きなんだよね。聞いてる側にとっては同じ下ネタなのかも知れないけど、何かの例えを判り易く性行為や性にまつわる話でするだけで、ゲスい感じなだけだと話してても面白味がないんだよ。女の子何人とヤッたとか何回ヤッたとかばっかり言ってる奴がいると「コイツ、他に話する事ねーのかよ」ってツマンナクなっちゃうんだよね。そんで、男二人で話してて下ネタばっかりだと行き着く先は「じゃあ、今から風俗行くか」しかないじゃん。アレが嫌いなんだよ。「風俗一緒に行ったら俺達仲間」みてぇなクダラナイ付き合い。

 

鍛冶:俺もゲスいのが大好きな友達とかもいたりするから下ネタとか女性関係の話をする時もあるけど、高蝶さんとは二人で話しててそういう話になった事無いなと思って、不思議で。

 

高蝶:下ネタとかって相手に振られない限りは男二人でする話じゃないんだよ。男が集まって皆でワイワイやってる時にする話だと思ってんだよ。歳を重ねてくると、より一層なってきてるかな。オッサン二人で下ネタとかセクシャルトークしてても「中学生じゃないんだから、もっと実のある話しようよ」ってなるなぁ。特に鍛冶と話す時とかさ、せっかくクリエイティブな事に携わってる二人なんだから、どうしても何かカタチにしていく話がしたくなっちゃうんだよ。そういう意味では話し方や態度は相手によって変えないけど、話の内容は変えてるよね。

鍛冶:しっかし、高蝶さんってスタンス変わらないですよね。出逢ってから現在の「THE VALVES」になってからも、俺に対するスタンスも何にも変わってないし。

 

高蝶:俺さぁ、今までも色々と世間で言うところの大きい仕事や有名な人との仕事とかやってきたけど、特に自分から積極的にそーいう類いの仕事を取りに行った事が無いんだよ。全部、相手側からの依頼だったり雑誌の企画として依頼されたから友達のミュージシャン連れ出して何かやってきたり、業界の次の世代の事を考えて企画立てて動かしてみたり。有名なミュージシャンとコラボレーションですって雑誌の企画でやっても、相手の事務所側からの依頼じゃなければ限定数10個とかしかやらないできたし。あくまでも業界や雑誌を盛り上げようとしてやってきただけで、お金稼いだりブランドの実力を発揮するのは普段の仕事の中でやってなきゃいけない事だから。コラボレーションだ何だのネタ物で稼いでるだけなんて嘘の実力でしかねぇよ。

 

鍛冶:凄いっすよね。言ったら皆がそういうので稼ぎたいし有名になりたい訳じゃないですか?

 

高蝶:映画の「クローズZERO」とかが俺がやった仕事の中だと凄くメジャーな仕事になるんだろうけど、アレの1作目の時とかは俺がやってるって宣伝とか全くしてないんだよね。原作者の高橋先生に恩義があるから参加して良い仕事が出来たぐらいに捉えてたし。でも2作目の「クローズ ZERO2」の時にはもう、劇中で使用されてるアイテムのコピー品とか出回ってたし問い合わせが喧しいしで、雑誌で企画を頼まれたりしたからもう「ウチがやってます!!」みたいにせざるを得なかった。エンドユーザーの事を考えるとそーゆー説明的なアクションが必要になってきちゃう時もあるし、以降は映画とかの仕事をやると説明対応的に出してるけど俺個人の本意では無いね。

でも周りからしたら「アレでスゲー儲かったんでしょ」「有名な仕事出来ると良いよなぁ〜」ぐらいに思われちゃうんだから。映画の「クローズ」シリーズで現場に入って色々と仕事してたけど、手柄もギャラも全部、クズテツさん(北原哲夫)が持ってった。1円もギャラ貰ってないんだよ俺は。良い作品が出来て楽しめたんだから、「ソレでいいだろ」って。

 

鍛冶:ホントに混じりっ気無いっすよね。そのくせ説明が足りないって言うか誤解され易いのを放ったらかしにしてて。

 

高蝶:でもさ、思わない?鍛冶も音楽を創ってて良い曲とかスゲー気持ちのいいライブ出来たりしてさ、俺はそういうのを状態や時間であれ物体であれ“カタチ”って言葉で言い表すんだけど、良いカタチや美しいカタチを成したらそれでいいだろって。そりゃあお金を沢山稼げる人は立派だと思うよ。思うんだけど、自分が物創りをする側になった時に金儲けして資産を山の様に残したいのか?それとも沢山のカタチを残したいのか?

 

鍛冶:そこのバランスで悩んだ事って無いっすか?俺はずっと生きてる以上は悩み続けると思うんですよバランスの部分で。金儲けって部分じゃなくて、お金を稼ぐ事とカタチを残していく事については。昨日もスタジオでちょっと話してたじゃないですか、良い機材が欲しくなった時に経費の計算とか費用対効果みたいな事が出てくるし、結局はレコーディングの機材とかも良い機材は予算が掛かるし。

今回制作した「REFUSE」とか凄い良い音で録れてると思うんですけど、やっぱりソコはスタジオの機材が良く無いと限界があるし、今回使ったスタジオだって一般的に借りたら相当な金額になる訳じゃないですか。だから今回のレコーディングの時に高蝶さん凄い予算掛けてくれて「アメリカでツアーやって稼いできたから」って。

 

高蝶:レコーディング前にアメリカに行く時に「出稼ぎしてくるわ」って言って出て行って、帰国したら「稼いできたからあと何曲はレコーディング出来るぞ」ってやってたね。

 

鍛冶:結構エゲツナイ金額が掛かったじゃないですか。でも、ガチでやろうと思ったらあのぐらいの金額が当然の様に掛かってくるんすよ。て、なると。今までの「THE VALVES」って低予算で録ってたからあのインディーズ感が出てたけど、今回はメジャー感と言うかパキッとしたダイレクトに伝わる音が録れてる。「表現する上でお金に左右されたく無い」って考えたらしっかり予算を稼いでなきゃいけない訳だし、ソレはソレで重要な部分になってくるじゃないですか。だから悩むんですよ。

 

高蝶:俺の場合は、その部分をカッチリ仕切ったのは30歳になった時だね。周りからしたら解らないのかも知れないけど、本人だけが肌で感じるモノってあるじゃん?そりゃあ、単なる思い込みや勘違いでしかないのかも知れないけど30歳になった時に、自分のやってるブランドの売れ方とか取り扱い店舗の数とかメディアでの露出だったり海外での展示会だったりを俯瞰で見て「このまま進んだら自分のやりたかった“カタチ”に出来なくなる」って感じたんだよね。出来なくなる代わりに、これぐらいのお金が稼げて、このレベルの車に乗れて、このレベルの家に住めて、ってのがビジネスのセオリーと同時に頭に浮かんで、その時に自分に対して「そんなのが欲しいか、俺?」ってなった。

アメリカとかで飽きるぐらい良いバイクとか車を目にして、良い暮らししてる家とか見て「カッコいいな」とは思うよ。でも、自分個人の為にソレが欲しいか?ってなると「いらねぇな・・・」って。そんなん掻き集めてる自分がクソダセェって思っちゃって。

 

鍛冶:そういう生き方がスゲーカッコいいって言うか、理想なんすよね。これは・・・もうアナタの前では言いたく無いんですけど、理想だったんですよ高蝶さんの生き方がずーっと、出逢った頃から。だから、後追いしてる感ってのも自分でムカつくし。高蝶さんが海外行って向こうでスタジオ構えて制作とかイベントやってるじゃないですか。俺も向こうでスタジオ持ってLAでレコーディングして「楽曲送っといたから」ぐらいの事が理想だったのに、何かもう先にやられてんな、ムカつくなって。

それで、こうやって「REFUSE」に遊びに来る度に、店も凄くなってくし発展させてって、ロデオの頃も今の「THE VALVES」もスゲー影響受けてますからね。

高蝶:う〜ん。でも、俺にとってはこの感じが一番の自然体なんだと思うんだよ。その、30歳になってカッチリ決める前から近い感じではあったけど、もうちょっとツッパってたしイキがってデカイ仕事やったり色々と大袈裟な事もしてたけど、やり尽くして振り切っちゃったんだよね。

 

鍛冶:そうやってると、疎外感とか感じないですか?

 

高蝶:疎外感って言うか、嫌な立ち位置になっちゃったな。ってのはある。例えば、今回みたいに一緒に「REFUSE」ってアルバムを制作しました。って事はファッションとかシルバーアクセサリーの業界でそんな事をやるヤツがいないんだよね。だから、俺じゃなくて業界の他の誰かがやってくれれば良かったな。って思っちゃう。こんなに面白い事を違うブランドの誰かがメジャーなバンドか何かと組んでやっていればって。

 

鍛冶:でも、他にこんな事やる人とかブランドってあります?イベントとかやったり、コラボレーションで何か商品出したりは見た事ありますけど、結構色々と見てきてるけどアルバムの制作とか見た事も聞いた事も無いですよ俺は。

 

高蝶:皆さシルバーアクセとかファッションの人達も何かと「ROCK、ROCK」みてぇに言うじゃん使い易い標語みてぇに。でも、結局は皆でROCKって文化を食い物にしてるだけなんだよね。逆にマネーの問題じゃなく、ちゃんとクリエイティブな何かでROCKに貢献してる奴なんて殆どいないよ。「ROCKがうんたら」言うんだったら、シンプルにROCKを創り出しゃいいじゃん。創り出す為の関わり方なんて金にならなくても色々あんだから。そーゆー事を考えてのアクションなんて考えて無い奴等ばっかり。

だからやっぱり俺みたいな考えの奴が今回のプロジェクトみたいな事をやるんじゃなくて、他の誰かがやった方が良いんだよ。何でかって言うと、俺がやっちゃうと「あの人はそういう事やるからね」とか「アイツはそういうヤツだから」で済まされちゃうんだよ。別枠の頭イカレた奴って扱いで終わり。それはもう今までに俺がやって来た事のせいでそう扱わせちゃってる訳だし、疎外感って言うより「俺って残念な奴だな」ってのが現状。

 

鍛冶:だから、やっぱり凄い誤解を受けてますよね。色んなところで。

 

高蝶:誤解って言うか、仕方無いよね。誰がどう見てるとか何言われるとか、そんなの気にして自分の生き方とかアクション決めてないし。

 

鍛冶:音楽業界とかファッション、アパレルやシルバーアクセサリーにしても結局はお金、「数字を稼いでる奴が偉い」みたいな事になっちゃうじゃないですか。面白い事とか凄い革新的な事をやってるよりも。

 

高蝶:ん〜、でもマネーが稼げるって悪い事ではないじゃん?日本人的な感覚としては「お金を追ったりするのは良く無い」的な美徳があるけど、俺は金を稼ぐのが悪いとは思わないし、必要な要素だとは思うんだよね。ただ、「必要以上に要りますソレ?」って思っちゃうだけ。

例えばさ、店をやるのに毎月の必要経費がどんだけ掛かるって話で諦める人がいるけど、「そんなの自分が家とか住まないで店やればいいじゃん」ってなるんだよ。

 

鍛冶:まぁ、実践してますからね高蝶さんの場合は。

 

高蝶:作業場の椅子で寝て、流しでシャワー浴びて、そんなんでも人って生きていけんだから、本当にやりたいならやれば良いだけじゃん。「何を小ちゃい自分の生活はしっかり保証してやがんだ」って話でさ。

 

鍛冶:そういう人生を掛けてる凄さって、美徳としてもう日本には無いじゃないですか。業界的にはメイクマネーが正義だし、一般的にもスマートに稼げる事が格好良さみたいになってる部分もあるし、何かに賭けるより自分の生活が一番みたいな風潮。

 

高蝶:別に自分が凄い事してるとは思わないなぁ、やりたいんだったら当然って事をしてるだけで。儲からないやり方を自分が選んでるのも解ってるしね。

 

鍛冶:そうなんすよねぇ〜。そっちが当然って思って進んでる自分達が残念なんですよね。

 

高蝶:単純にお金が稼げるやり方って見えちゃったし、実際にその手法を自分のブランド以外の仕事で過去にやってきた事があるからね。もうそんなのは“ツマラナイ事”でしかなくて、儲からないけど自分がカッコイイって思える仕事や物創りが出来たり、面白い旅や凄い物を目にする為に生きていったら、自分の身体や人生すらどうなっちまうか解らない事になる。そっちに進んだ方が飛び抜けて“オモシレェ事”になるってだけ。

 

鍛冶:そのやり方が、例えばまだロックンロールが存在してない時にプレスリーが出てきての「何だコレ!?」って理解が出来ない衝撃とか凄さみたいなの。それに近い気がするんですよ。だって、高蝶さんが自分の肩書き説明する時ってどうしてんですか?

 

高蝶:俺は便宜上「クリエイター」って名乗ってるんだけど、「何の?」ってなると説明が凄く難しくなってくる。

 

鍛冶:ですよね。だから難しいトコに行ってるんですよ、誰もやってないから。「切り拓いてんな」っていつも思う。俺も少なからず「THE VALVES」の活動でも同じ事を繰り返さないで前進してこうってメンバーとも話をしてて、ロックっていう小さいカテゴリーの中かも知れないけど、切り拓いて“ロックをロール”させていこうって。でも、切り拓いて前進していくって難しいっすよね

 

高蝶:今回制作したアルバム「REFUSE」の中の曲だと「LIBERATOR」の詩でも書いてるんだけど、切り拓いた先が見たいだけで自分の痕跡とか別にいらないんだよね俺の場合は。難しいのは切り拓く事よりも、その後に誰かが続いてくれるかどうかじゃないかな。

 

鍛冶:でも、切り拓く事へのわくわくしてる感覚ってありますよね。

 

高蝶:30歳になった時に一段階振り切って、40歳になった時にもう一段階振り切ったんだけど、俺は。40歳までは業界の下の世代がもっと先まで行って欲しいと思って雑誌の企画やら何やら、業界の中でも夢のある事を実践して行かなきゃって思ってたけど、40歳になろうかってタイミングでバイクでデカイ事故やったのもあったせいで身体の不自由みたいなのもあるけど、もっと自分に残された時間を自由に使わないとってなった。そんで雑誌だとか何だとかの余計なシガラミのある仕事は全部辞めちゃって、より楽しめる方に振り切ったかな。

 

鍛冶:雑誌で映画のコラムとかもやってましたよね。アレも結構読んでたんすよ。

 

高蝶:用意が出来たらウチのサイトでまたやろうとは思ってるよ。でもさぁ、そうやってシルバーアクセサリーだけに固執しないで自分のセンスやクリエイティビティを発揮する違う可能性を切り拓いても、業界の連中からしたら“イカレた別物”扱いでシカトするぐらいになっちゃってんだよね。異物は排除するのが商売的には正解だし、シカトしないで認めちゃったら出来てない自分達のビジネスが脅かされる事になる訳だから仕方ないんじゃない。皆、自分達の生活とか商売が大切じゃん。適度な刺激とか適切な凄さだったら認めて発奮材料にしても良いけど、俺のやってる事って適度でも適切でも無かったんだよね。それは自分でもよく解ってる。

 

鍛冶:端から見てての感想ですけど、この15年間ぐらいの高蝶さんトコの動きとかって、ちょっとニヤっとしちゃうんですよね。「ねっ、この人間違ってなかったでしょ?」って、誰にアピールするとかでもなく「ねっ」って。上手く言えないけど「仲間が勝った!!」みたいな感覚で。

だって、高蝶さんのやり方だとブッ潰れる方が業界とか周りの人達からすると予測してたんだろうなって。「アノやり方じゃあ、高蝶君は無理だよ続かないよ」って業界の人達は予測してたと思うんですよ。それが20周年で俺らとアルバム制作しようって言われて何か、ニヤってしちゃうんですよ。

 

高蝶:まぁ、自分でも「よくツッパリ続けられたなぁ」とは思うよ。ただ、歳を重ねてくと周りの同じ様にやってた奴等が結婚して子供が出来てとか、ブランドとか店は生活して行く為に出来てればとかになっていって、物創りの為に金を稼ぐんじゃなくて金を稼ぐ為に物創りをしてく様になってるのを見てると、前までは下の世代が出て来れる様にとか思ってたのが、逆に誰に頼まれた訳でもねぇのに「せめて俺だけでもツッパリ続けねぇとな」みたいな感覚になってくるよ。

THE VALVES: http://www.thevalves.net/

人が動き続けるのに睡眠と食事が必要である様に、毎日の暮らしを行うには住居が必要になる。しかし、それだけで目紛しい世の中をタフに生きていけるだろうか?

新しい何かを見つける為の刺激や、自分らしくある為のスタイル。何か行動を起こす為には心に響く燃料が必要だ。音楽やアート、嗜好品やファッション、誰かとの時間やスポーツ。そして、旅とクリエイティブ。
物を創るという行動、その為に必要とされる刺激を表現する事で、誰かが行動する為の燃料になる様に、クリエイティブの現場をフォーカスし、そこに携わる様々な事象や場所・人達を幅広くお伝えしていきます。