GIGOR 20th Anniversary Project Vol:01

「GIGOR」というブランドが設立されてから20年を迎える。望む望まざるに関わらす、シルバーアクセサリー業界に狂乱の時代を呼び起こした“第三世代”の一角を担っていた「GIGOR」は、東京・下北沢に工房を兼ね備えたギャラリーを構え、クリエイターの荒川ジゴロウ氏の手でブランドを動かし続けてきた。

個人の創り手にとっては、どの時点からブランドの設立とするかは創り手によって変化してくるだろうが、20年という時間は誰にとっても短い物では無いし、ブランドを継続させる20年は並々ならぬ苦労を伴った事だろう。その20年に対して「自分のやりたい事を20個やる」と決めてのGIGORによる20周年プロジェクト。そのプロジェクトとブランドに対する想いをクリエイターの荒川ジゴロウ氏に聞いたインタビューを前後編に別けてお送り致します。

 

GIGOR Interview  Vol:01  WALK THIS WAY

—20周年という事で企画の内容からお聞きしたいところなんですが、先ずはブランド設立の頃の話から聞かせて頂いてもいいですか?シルバーアクセサリーのブームがファッション的には頂点から下がり始めた1999年にGIGORを始めたそうですが、当時に何故シルバーアクセサリーを生業にしようと選んだんでしょう?

ジゴロウ:少年時代から「男として生まれたからには歴史に名を残す男になりたい」って想いがあって、それが中学生や高校生時代はスポーツだったりもしたんだけど、段々と生まれ持った肉体的な才能の限界とかを色々と理解していって挫折も味わって、他の何かを探しながら逃げる様に大学に行ってる最中に、ふと指輪でも買おうかってシルバーアクセサリーを買いに行ったんだよ。

その買いに行った店で自分の好きなブランキーの曲が流れてて、誰もお客さんも店員がいなくて何だろうな此処?みたいに思ってたら店員のアンちゃんがカウンターの向こうで昼寝しててさ、内心「いい加減だなぁ・・.・」みたいに思ってたんだけど、その店員さんが起きてきて少し話しながら指輪選んで、だけどその指輪がサイズが合わないってなったら、「20分ぐらいでサイズ直ししてやるから飯でも食って来な」って、さっきまで昼寝しててテキトーそうだった人が本当に20分とかでサイズ直ししてるのを見て、その姿に憧れとか衝撃を受けたのがキッカケ。

—ズボラな印象から作業に入ったとたんに出る職人的な姿勢、そのギャップですよね。物創りの人は普段の生活のダラシ無さとは対照的に作業に集中する人とか多いですから。

ジゴロウ:それで、その作業する背中に惚れて、「この人みたいになりたい」って。どうしたら良いかって考えたら、同じ様にシルバーアクセサリーを扱う職人になるのが最善だってなって、まだ大学生だったんだけど「彫金師になる」って決めて、当時に浜松の「M’s collection」に「彫金師になりたいです」って相談に行ったり他の彫金工房に修行に入ったりして、自分の作品が出来たら浜松のシルバーアクセサリーSHOPに営業回りしたりしてた。そしたら一店舗だけ置いてくれるSHOPがあって、其処に置いてもらった時をブランドのスタートって捉えてるから、その時が1999年。

—現在みたいに、インターネットで作品を売り出せば取り敢えずはスタートとかでは無い時代ですから、SHOPに並べて貰える事がブランドのデビューというか、それで初めてブランドやってると言えた時代ですよね。

ジゴロウ:そうそう。そっからもう「俺はコレで食ってく」って気持ちも固まった。でもまだ技術的な部分や、ブランドやるなら東京に出ないとって意識もあって、大学卒業の時に「彫金師として生きていきたいから」って親を説得して、東京の専門学校「ヒコミズのジュエリーカレッジ」に行かせて貰った。

よく在る話だとは思うんだけど「25歳迄は夢を追いかけさせてくれ」って、親も許してくれて東京に出てきて、其れからは期限が決まってるから必死に物創りに励んでた。

—ブームは下り始めてたとは言っても、まだまだシルバーアクセサリーに対する関心の高かった時代でしたけど、最初から東京で上手くいきましたか?

ジゴロウ:いや、兎にも角にも必死だったよね。作品が出来たら営業に行って、生活費も稼がなきゃならないからバイトもこなして、また作業して営業行っての繰り返しで、そんな中でようやく何店舗か扱ってくれるSHOPも出てきても委託での取り扱いだから食っていくにはキツかったよ。専門学校に通った1年の間じゃあ生きてけるレベルには達してなくて、キャットストリートに在った「M’s Collection」で働かしてもらう事になったんだけど、最初の面接の時から「僕は自分のブランドをやっているんで、その売上げが給料を超えたら辞めます」って言い切ってたんだよ。

—随分思い切った考え方ですよね。生活面だけを考えたら働きながらブランド活動してた方が明らかに楽だし、現在のシルバーアクセサリー業界の若い創り手の子達なんて、一本立ちするリスクは最初から避けてブランドやってますもんね。

ジゴロウ:そうだね。でもそうやって決め込んでやらないと駄目だったろうし、ある時に自分のブランドの売上げが給料を超えて辞めたんだけど、ソレはあくまでも偶然みたいなもので、でも言った以上はって辞めて活動してたし苦しかったよ。その内に、辞めた半年後位かな、原宿にあった取り扱いSHOPの1軒が当時はミュージシャンとかと繋がりの深いスタイリストが出入りしてるところで、ミュージシャンが着用してくれて大きく売上げが伸びるチャンスも掴めたし、そこから色々な企画にも携わる事になったりで、ブランドだけで生活していける様になった。

—それからですよね、現在の活動に直結するギャラリーを下北沢に構えたのは2005年とかでしたね。何故、場所として下北沢を選んだんですか?

ジゴロウ:二つ条件があって、誰でも知っている様な有名な街で自分でも買い物に行く様な街が良いって事と、その街の中でも“隠れ家的”な位置に在るって事。知る人ぞ知る店っていうのが好きで、その条件で考えると現在の場所がベストだったんだ。誰もが知っている有名な街なのに、敢えて奥まった場所を選びたくなっちゃうのは自分の“天の邪鬼”な気質によるところだとしか言いようが無いね。

—ジゴロウさんの性格がよく投影されてますよね。“天の邪鬼”と言うのが的を得ているかは判りませんが、少しズレた事をしたがる。物創りやブランドにも表れている部分だと思いますし、15年近くこの場所で活動しているという事はジゴロウさんにとって落ち着くスペースとして良い場所だったんでしょうね。

ジゴロウ:勿論。知っている人やGIGORを目指しての人しか来ない。それが良い。だからディスプレイにも馬鹿みたいに拘れるし、ゆっくりGIGORの世界観を堪能出来るスペースとして構築してる。

—このギャラリーでのディスプレイやショーケースを拝見していて“面白いな”と感じるのは、イタリアやスペイン等のアンティークで特にロココ調の調度品が際立つんですが、GIGORのアイテムって例えばロココ調の曲線やバランスをそのまま投影するデザインになっていなかったりで。

ジゴロウ:そこは自分の表現者や創り手としての拘りの部分で、そのままのデザインで創り出すのはしたくない。エッセンスとして取り入れている部分はあるし影響も受けてはいるんだけど、コピーみたいに写実的にしたいとは思わない。

スカルなんかに対しての考え方もそうなんだけど、皆が思うスカルは自分が創り出さなくても上手い人がいるんだし、その人がやれば良いと思う。そういうスカルは世の中に氾濫してるんだから。せっかく自分がスカルを創り出すんなら、世の中にまだ存在していないデザインのスカル、オリジナルじゃなければ意味が無い。

だから、こうしたロココ調のデザインにしても、そのままコピーしてコラージュする様な事はする気にならない。好きなデザインであっても自分が創り出すのは“唯一無二”な物が良いと思ってしまうし、自分が欲しい物がソレなんだよ。

—つまり、GIGORのギャラリーに於いてこうしたロココ調のショーケースやディスプレイは、GIGORの世界観やアイテムを引き立たせる為の土台であって、その上にオリジナリティを立たせるのが、このギャラリーの演出という事ですね。

ジゴロウ:正解です。GIGORの世界観を楽しんで貰う為のピースとしてショーケースやシャンデリア、20周年の企画で新しくしたソファなんかが存在している。それがGIGORのオリジナリティをより際立たせる為の空間創りだし、自分のやりたい事でもある。

—以前から気になっていたんですが、ブランド名の「GIGOR」って「ジゴロウ」ってローマ字読みにしても綴りが合っていないですよね?どうしてなんですか?

ジゴロウ:子供の頃から絵にしても何にしても自分の作品みたいなのには「GIGOR」ってサインしてて、子供の頃って自分の名前を正しくローマ字で書けなかったりするでしょ?調べるにしても調べ方すらよく判って無いような子供の頃。だから音の響きだけで「GIGOR」って間違った綴りで書いてて、ソレをそのままロゴに使って、ブランドとしても変える必要も感じなかったし、そのままで貫いてきてるから。

—エピソードとしてちゃんと背景が在ると疑問が解ける楽しさが在りますよねブランドは。でもやっぱりそういう一筋縄でいかない考え方がジゴロウさんらしさなんでしょうね。

ジゴロウ:良くも悪くも“天の邪鬼”な部分や何処かでメインストリームに対してソッポを向いちゃう気質は変わってないね。でも、今回の20周年の企画で現在の自分をどう変化させていけるか?は凄く考えてる。1年間を通して20個のやりたい事をやるのが自分にどう影響していくのかも自分にとっては楽しみの一つだし、それはお客さんにも楽しんで貰える部分だと思ってる。

 

*後編はコチラ→ GIGOR 20th Anniversary Project Interview Vol:02  

 

 GIGOR: http://www.gigor.jp
 GALLERY GIGOR:  東京都世田谷区北沢3-20-6JOY101
TEL/03-3485-8382   営業時間/11時〜20時 定休日/無休

人が動き続けるのに睡眠と食事が必要である様に、毎日の暮らしを行うには住居が必要になる。しかし、それだけで目紛しい世の中をタフに生きていけるだろうか?

新しい何かを見つける為の刺激や、自分らしくある為のスタイル。何か行動を起こす為には心に響く燃料が必要だ。音楽やアート、嗜好品やファッション、誰かとの時間やスポーツ。そして、旅とクリエイティブ。
物を創るという行動、その為に必要とされる刺激を表現する事で、誰かが行動する為の燃料になる様に、クリエイティブの現場をフォーカスし、そこに携わる様々な事象や場所・人達を幅広くお伝えしていきます。