Do Androids Dream of Electric Skull?  —STRANGE FREAK DESIGNS 古谷尚人の選択—  Vol.01

映画「BLADE RUNNER」をご覧になった事はあるだろうか?“レプリカント”と呼ばれる人造人間が使い捨ての様に働かされている荒廃した未来の世界(とは言っても現実の時間ではもう来年の話だが)が映し出される見事な映像がマニアックなファンとその後の多くの映像作品にフォロワーを生んだ傑作は、“生命とは?”を問う作品テーマとは別に、巨大企業による需要操作が描かれると共に、人間を超える能力を持った“レプリカント”の脅威と悲哀が描かれている。

需要と供給のバランスは、流行り廃り以上にテクノロジーの進化によって大きく変貌を遂げる。これは現実社会でも変わらないセオリーだし、時代の主流がデジタルテクノロジーへと移り変わってからは誰もが体感している事だろうが、物質的な存在を持たないデータ(もしくは其れ等の通信や保管)が価値を持つ世界となって久しい。

物創りの現場、シルバーアクセサリーの世界に於いても、CAD・光造形やレーザー彫刻といった20年以上の歴史があるテクノロジーはジワジワと需要を広げ、近年は個人が使用するのに現実的な価格帯の3Dプリンターが登場した事で造形の世界も大きく変化する事となってきたが、シルバーアクセサリー業界では実際にデジタルデータの構築と3Dプリンターで造形を行っている個人のクリエイターはそう多く無い。そんな中で自らのブランドにデジタルワークを取り込み新たな領域を切り開こうとしているSTRANGE FREAK DESIGNS のクリエイター・古谷尚人氏のイベントを追うと共にデジタルでの創作についてインタビューを行った。

— いきなり失礼な質問になりそうですが、デジタルデータを元に3Dプリンターで出力しての制作は、手で物創りを行っている職人の作業や労力とは同じ目線で見られていない、つまり職人の技術として認められていない、楽をしていそうに思われる現状がまだまだシルバーアクセサリー業界の中では存在している部分に対してどう感じていますか?

古谷:話の論点が合ってる例えになるかは判りませんが、多くの創り手がハンドリューターやバッファー等の電動工具を使用して研磨作業を行っているのに対して、そうした工具を用いずに手で鑢がけをして磨いている人達もいる訳だけれども、別に其れは個人の拘りであって楽をしているとかでは無いのと同じかな。他の人が使っていない様な特殊なスパチュラ(WAX原型製作用の工具)を使っている創り手がいたとしても別に其れを“ズルい”と言う人は少ないでしょう。特殊なスパチュラが存在していて其れによって自分の創りたい物が制作出来るならば使える様になれば良いだけです。

其れと同じ様に僕は3Dプリンターやデジタルでデザインして出力するのに必要なデータを作成するソフトを学んで使っているだけの話であって、確かに従来のジュエリー制作に於ける鏨を使用しての表現みたいな世間一般に認知されている職人技みたいなものでは無いけれど、例えば3Dでドラゴンを描き出すみたいな技術は緻密さや深度も際限なく存在しているので追求していくべき技術だと思っていますね。

— 勿論使いこなす知識や技術があっての話ではありますが、従来の制作では肉眼や仮に拡大鏡等を使用しても限界があるのに対して、デジタルの世界では簡単に拡大や縮小が可能で、モニター上で細部を隈無くチェックする事も可能ですし、データであればやり直しが容易であるという点もあります。そうした便利過ぎる程の機能が従来の物創りと掛け離れて見えている点はあるんじゃないでしょうか。

古谷:僕自身は気にしないですね。業界の方々や他の創り手さんがどう思っているかを置き去りにしちゃう意見かもしれませんが、一つのカタチを創り出すという事を目的地とするならば、自転車で自分の肉体を使いながら向う人もいるし自動車やバイクでスピードを求める人もいて、それで良いんだと思います。だから便利だと思うなら「やりたい人はやればいいじゃん」っていうのが僕の意見で、僕らが若い頃に創り手の人を見てカッコイイって感じて真似をする事で始めたのが原点としてあるので、僕はデジタルで制作する世界にも憧れみたいなものがあって今の方法を選んだし、もし僕のやっている3Dプリンターを制作に導入するやり方を真似てやってくる人がいれば、それは嬉しい事です。好みや憧れから生まれる拘りであれば良いとは思いますが、変に意固地になって物創りに制限を掛けてしまうのはマイナスにしかならないと思うので。

— 創り手というか従来の手法でジュエリー制作を行っている人達からすると、デジタルでの制作に対して否定的な意見を口にする人も少なく無いと思うんですが、それは偏に“恐怖”や“脅威”みたいな感覚が何処かにある様な気もします。若い創り手にとってはアナログかデジタルかは選択の一つでしかないのだと思いますが、二十年を超える様な創り手にとってみれば未知の便利さや、自分達が積み上げてきた技術が新しいテクノロジーに取って代わられてしまう様な不穏さや恐怖が何処かにあっての否定的な意見な気がするんです。この先を考えるとデジタルで制作している人達も同じ様に新しいテクノロジーの出現によって自分の技術が追いやられる恐怖に近い感覚を味わう時が来る可能性は高いですよね。その時にどう対応しますか。

古谷:どの職業にも存在する可能性ですよね。どちらかと言えば・・・足掻きながら新しいテクノロジーに付いていこうとするんだと思います。この一年で自分が使っているソフトがバージョンアップされて新しい魅力的な機能が搭載されたんですが、まだ使いこなす様になっていないし遅れを取っている部分は今でさえあります。新しい3Dプリンターで性能が良い物がリリースされる情報があれば気になるし、より良い性能なのであれば使ってみたいと思うでしょうね。

ファッションなんかはトレンドも変化していくし流れも早い中で、それでも「これが俺のスタイルだ」というのを貫いたり拘りを持っている人も多いじゃないですか。でも逆にその時その時の流行りをツマミ食いする様な感覚で選ぶ人もいて、中にはもうファッションに気を遣わなくなる人もいる。テクノロジーの進化に付いていくのも流れの何処かで何かを放棄したら楽にはなるんだろうけど。

— ファッションの場合は何処かで留まってもスタイルとして確立されるかもしれないですけど、テクノロジーの場合は追随を止めてしまうと簡単に淘汰されてしまう恐怖がありますし、それ以上のレベルを求める事が不可能になってしまう。其れは現状でデジタルの進化に対して恐怖に近い否定を感じている創り手の人達と同じなんじゃないでしょうか。長い期間を手作業で技術を磨いてきた人達からすれば、今更デジタルの勉強をする事は否定というよりも拒否したい事でしょうし。

古谷:そうでしょうね。きっとこの先になれば僕自身もテクノロジーの進化の中で自分が否定したい様なモノが出てきたりするだろうし、その時には拒否すべきかどうか悩むんだと思います。単純に事業主としての考え方であれば自分の年齢を鑑みた時に、若いデザイナーやオペレーターを雇って新しいテクノロジーやツールに対応していく事が正しいんでしょうけど、ブランドがそれで良いかどうかは別問題です。

— 少し質問のベクトルを変えさせて下さい。3Dプリンターを制作に導入する事によって古谷さんの頭の中で思い描くデザインは変化したのでしょうか、それとも頭の中に存在していたイメージを具現化させる為に3Dプリンターを導入したのでしょうか?

古谷:どちらかと言う事であれば後者になります。その点に関してはデジタルでの制作が如何に便利であっても頭の中に浮かばないイメージを描き出す事は出来ないという、結局はセンスやヴィジョンを持っていて磨き続けないといけない。

— しかし、デジタルに移行する以前のSFDでの古谷さんの作家性とは明らかに違ったモチーフ選びや流れの作り方もデジタルに移行してからは多く見られます。それはやはり新しいツールによって導き出された部分が大きいのではないかと。

古谷:うん。それはありますね。創っていて、楽しくなっちゃったんです。このテクノロジーと出逢って使用し始めたのが3年前になるんですが、凄くワクワクしたんですよ。「これは面白い!!」ってなって、今までは意固地になって自分の作家性を狭めている様な部分があったのを上手く解放する為のツールにもなった。手で制作する原型としてはイメージが在っても億劫になってしまう様な左右対称性や同じ紋様の連続も、ヴィジョンのレベルをダウンさせる事無く具現化出来る様になって、制作に入る自分を軽くしてあげる事が出来たのは大きいです。

— 制作を楽しめるというのは凄く重要ですよね。長く同じ仕事や作業を続けていると憧れていたり楽しかった筈のモノが重苦しくなってしまう時があったりするのはよく聞く話です。

古谷:デジタルである事で修正やコピーは容易になっているし、制作者としてはツールの便利さに甘えている様に見えてしまうのかもしれないけれど、僕はデジタルのツールを使って物創りをしていく事を選択したのだから、そのうえでのクオリティの高さを出していかなくちゃいけない。

 

インタビューの最中、古谷尚人は少し慎重に言葉を選んでいる様に見えた。誤解を招きたく無いという気持ちも含まれていたのだろうが、恐らくは自分の意見を言葉として発しながら再確認をしている点が大きいのだろう。意見とは発してみるまで自分でも解っていない部分もあるし、ディスカッションによって新たな意見を生む事もある。物創りも同じ様に外に出そうとして初めて見えてくる事も多く、それはクリエイターにとって新たな発見であり楽しみでもある。

取材協力:

GINYA 長野店: http://www.tokaisangyo.jp/ginya/nagano.html

SILVER GEEKS: https://www.stfreak.com/geeks/

STRANGE FREAK DESIGNS: https://www.stfreak.com/

 

今回取材させて頂いたSTRANGE FREAK DESIGNSのイベントが下記の日程で行われます。是非、ご参加下さい。

10月28日 横浜VIVRE 5F ESPOIRE  https://www.espoir-silver.com/

11月11日 栃木県小山市 XXX (avataraとの合同イベント)  http://www.avatara0214.com/

人が動き続けるのに睡眠と食事が必要である様に、毎日の暮らしを行うには住居が必要になる。しかし、それだけで目紛しい世の中をタフに生きていけるだろうか?

新しい何かを見つける為の刺激や、自分らしくある為のスタイル。何か行動を起こす為には心に響く燃料が必要だ。音楽やアート、嗜好品やファッション、誰かとの時間やスポーツ。そして、旅とクリエイティブ。
物を創るという行動、その為に必要とされる刺激を表現する事で、誰かが行動する為の燃料になる様に、クリエイティブの現場をフォーカスし、そこに携わる様々な事象や場所・人達を幅広くお伝えしていきます。