ONE MAKE RHAPSODY -VANITAS HAT-

幅広くなればなる程、本来必要としていた物を見失う。カタチや伝え方は変われど人類史の中で幾度も語られてきた様な“拡張に於ける警鐘”は、成長や拡大を望む企業や人の野心によって本質を損なってしまう事例が起る度、欲や野心は過ぎたれば得を失うと多くの媒体で危険性が説かれています。冷静な状態で鑑みてみれば、本質を見失った拡張に対して「多くの注意勧告が存在するにも拘らず何故?」と思わざるを得ないのではないでしょうか。

こうした傾向には偏に“安易さ”が関係しているのだと思います。シルバーアクセサリーの物創りに於いても其れは同じで、SHOPやカスタマーに乞われるまま安易に自己発信では無いカスタムやONE MAKEをリリースし続け拡張していると、ブランドやクリエイターとして常に表現し続け新たな発信をするべきレギュラーアイテムのリリースに時間を要する事となってしまう事も少なく無いでしょう。

制作自体は疎かにしていなくても創作自体は疎かになってしまうなんて事になってしまうと、本末転倒と言わざるを得ないですが、ブランドにとってSHOPやカスタマーの要望は避けて通れないですし、要望に応える事がブランドの経済を支えているのも確かな事実である以上は、個人のクリエイターが展開しているブランドに於いてはクリエイティビティのバランスを上手くコントロールしていくのもブランディングの1つと言う事になります。

シルバーアクセサリーの世界で2000年代初頭から個人でブランドを展開するクリエイター達の間で使用されカテゴライズされてきたONE MAKEの重要な定義となるのは、Order made やOne offと呼ばれるカスタマーの要望に応えるタイプの1点物とは違い、クリエイター自身のブランドを探究し制作する事で、次への礎となる発見がONE MAKEにはあるのだと思います。それだけに、ONE MAKEと言うカテゴリーは其の特殊性によってクリエイターの自己発進力が問われる部分では無いでしょうか?

SHOPやカスタマーの要望に応じるカスタムやONE MAKEを続けている事で生じる現象を悪く言えば“安心と慢心”とするならば、其の逆で探究と自己発信を軸にして生み出される側のONE MAKEには“挑戦と発見”が存在します。ブランドやクリエイターのヒストリーが長くなれば長くなる程、挑戦はし難くなり発見が減っていくのが常ですが、VANITASでクリエイターの高蝶が行っているONE MAKEは常に挑戦的であり新たな発見を持ってしてリリースされている事が伺えますし、それは以前に紹介した「ONE MAKE RHAPSODY」でのシルバーアクセサリーだけに限らず別ジャンルのアイテムに於いても如何無く発揮されていると言わざるを得ないでしょう。

高蝶が手掛けるLoud Style DesignやANOTHER HEAVENとは違い、ブランドとしてのカタチを強固にするよりも何処か流浪な状態で展開しているVANITASは、不定期でONE MAKEをリリースしていますが加工の振り幅は群を抜いて広く、加工の際にマテリアルその物を大きく変化させながらVANITASの持つ退廃的に崩れていく彩りを染み込ませていく特徴がありますが、その特徴的な彩りの一部であるテクスチャーの部分を他のクリエイターが参考にする例が見受けられる事からもVANITASの魅力が伺えるでしょうし、何処までいっても他には無い独特な表現が存在します。

こうしたVANITASの魅力や独自性はブランドのカタチを固めて拡張してしまうよりも流浪な状態にしておく事で挑戦と発見の機会を増やし、トータルスタイリングよりもスタイルを彩るアクセントとしての役割を意識している事も大きいでしょう。今回はそんなVANITASが手掛けるアクセントの中でも特に挑戦と発見を強く描いたHATによるONE MAKE RHAPSODYをご覧下さい。

ブランドのヒストリーが来年で10年となるブランドにしては、年間の新作リリース数よりもONE MAKEでリリースするアイテム数の方が多いVANITASが、独自にHATを手掛ける様になったのは4年程前からです。其れ以前にも実験的な制作が行われてはいましたし、Loud Style Designではレギュラー展開されているオリジナルのHATとONE MAKEの両方がリリースされていましたから、クリエイターの高蝶にとってHATを手掛ける事は自体は珍しく無かったのでしょうが、問題は重要なVANITASとしての加工の部分です。

この加工の部分で大きな影響を与えたのが、REFUSEでも取り扱っているSCHAEFFR’S GARMENT HOTELのHOLLYWOOD STORE内に工房を構えていたHATTERのGUNNER FOXXであり、GUNNERの仕事に直接触れて交流を持つ事によって高蝶がVANITASで展開するHATに対して持っていた加工のイメージが固まっていった事は間違い無いでしょう。

それまではオリジナルのHATを制作し加工していく事がVANITASに必要だとしていた高蝶が、GUNNER FOXXのジェントルでありながら技法を重ねてダーティな仕上がりを誇る雰囲気はHATTERならではの物であるとして、VANITAS独自の加工の為に必要としたのはブランドの持つ退廃的に崩れていく過程での彩りを表現する事に定め、ヴィンテージやユーズドのHATをベースにしてレリック加工を重ね、彩るリボンやアクセサリーをHATに合わせて制作していく事でした。

マテリアルが金属だけでなくリボンに使用するレザーとHAT自体のフェルトやウールへと広がるに連れて、加工方法やカラーリングのバリエーションは増え続ける一方なのに加え、ベースとして使用するHATがヴィンテージやユーズドなだけにサイズもコンディションも1点1点をチェックして其れに合わせた加工を考えながら仕上げていく時間を要する工程となり、トライ&エラーを繰り返しながらVANITASのONE MAKE HATをリリースするまでに1年を要したと言うのにも頷けます。

VANITASのHATに於けるONE MAKEは先ずベースとなるHAT選びから始まり、個体のコンディションに合わせて加工方法を決めHAT本体のみを仕上げていくのですが、その際に行われる加工は単なるダメージやWAXによる着色では無くベース自体の形状やサイズを変化させVANITASとしてのカラーに染め上げていくレリック加工が特徴。細部に彩が幾層にも重なり合った加工をご覧になって下さい。

HAT単体として仕上った後に更に彩りを深くする為のリボンパーツと金属の装飾を制作していくのですが、既にHAT単体としてもかなりな特徴を持っているのに対して、やはり加工を施す事で雰囲気がマッチするレザーリボンも1点1点がHATに合わせてサイズや加工方法を変えており、ONE MAKEだからこその手間の掛けようと新たな加工を試していく実験性は見応えがあります。

金属装飾のパートは言うまでもなくVANITASの真骨頂ですから、通常のシルバーアクセサリーでリリースされるアイテムと比べても遜色無く、寧ろHATというベースが存在する事によって、より挑戦的な組み合わせや新たなアイデアの発見があり、金属装飾のパーツ単体でリリースして欲しくなるレベルですが、やはりHATと合わさる事で魅力を最大限に発揮するバランスで仕上げられている事は、手に取るまでも無く写真からでも伝わってくるんじゃないでしょうか。

「何をやらせても一流」と天才性を称する言葉がありますが、「何をやらせても俺流」と言う良くも悪くも我の強さが如実に表れる者もいます。特にクリエイターにはその傾向が強いのですが其の場合は限定的な範囲内で発揮されている事も多く、金属加工なら金属素材であったり造型なら造型の範囲内と言った具合に他の素材やカテゴリーでは上手く発揮されない事が殆どであるのに対して、稀にではありますが本当に「何をやらせても俺流」で描いてしまうクリエイターがいます。その我の強さはそのまま画の強さへと繋がり、目にする側にとってはブランドの世界が色濃く発揮されていると映るでしょう。

高蝶がクリエイターとしてVANITASのHATをONE MAKEでの展開にし、ヴィンテージやユーズドをベースとした理由の1つも其処にあると思われます。VANITASというブランドが持つ流浪さは、出逢った物や機会に対して自らを描けるかの挑戦であり、流されているのでは無く自ら流れさすらう事で新たな発見をしていく事で定義されていくのだと、ONE MAKEの意味に沿って制作されたHATAが奏でる RHAPSODYから伝わってきます。物創りのジャンルを超えて響かせる狂詩曲、味わってみては如何でしょうか?

 

ご紹介をさせて頂いたアイテムの一部はGALLERY・GARAGE REFUSEでのご購入が可能となりますので、ご興味のあるお客様は是非ともご確認ください。

GALLERY REFUSE

東京都江東区森下1-13-11 TEL: 0356001972

GARAGE REFUSE

東京都江東区森下1-11-7 TEL: 0362402972

 

1999年に高蝶智樹によって設立されたREFUSEは、空間であり組織であり概念である。
GALLERY、FUCKTORY、GARAGEの三拠点からなる創作と表現の空間は、エクスペリエンスを齎す事によって生まれる新たな選択を軸として構成されていて、空間毎にそれぞれ違ったスタイルと時間を楽しむ事が出来ます。
また、GALLERYでは空間と創作を楽しむイベントとして「GALLERY MADE」が毎月行われ、GARAGEでは「TRADING GARAGE」というREFUSEならではのイベントが不定期で行われます。

BRAND LIST
GALLERY REFUSE: Loud Style Design, VANITAS, BLACK CROW
GARAGE REFUSE: ANOTHER HEAVEN, 十三, SCHAEFFER’S GARMENT HOTEL, TNSK, …and more