XOX -Epilogue-

XOX -CROSS RING TEN-
2021年にブランドの20周年を控えるLoud Style Designが2019年に20周年を迎えたREFUSEの20周年との空白の1年を繋ぐプロジェクト「XOX」。2020年3月10日よりスタートした破天荒な道を走り続けてきたブランドが行う騒がしく型破りなプロジェクト。これはそのエピローグである。

 

価値の創造は需要と供給によって齎されると思いがちだが、需要と供給によって起るのは価値の創造では無く増減に過ぎない。近代史を翻ってみても判る通り、物質の価値は物質を取り巻く機器の価値を生み出しハードウェアの時代を経て、より多くを求める事でソフトウェアの流行に至ったが、利便性と効率化によってシステムが勝利する事となった。それは、今や決められたシステム内でデータを購入する事に誰も疑問を抱かずに生活する事からも明らかな事だ。

購入するならまだしも無料で提供されるシステムと無料で供給されるデータを、本当に無料だと思い込んでいる人達の需要が動かし続けているのが現在だが、システムは利便性と効率化を齎してはくれても実生活に価値を与えてはくれない。結局は無料のシステムとデータは個人に軽微な刺激と娯楽を与えてはくれても、選択肢を制限し情報を篤集してシステムをコントロールする側に利益を齎すのみになる。

では、価値の創造とは何なのか?答は単純に個人の持つヴィジョンに他ならない。路傍の石に価値を見出す者が全世界で自分一人だとしても、其れがその者にとって必要な世界であれば価値は創造される。そうして創造された価値を他者と共有し広がっていけば需要が発生していくし、繰り返し継続されていく事で個人のヴィジョンは具現化した一つのスタイルへと進化を遂げる。

Loud Style Design 「XOX」でクリエイターの高蝶が行った事。其れは価値の創造とヴィジョンがスタイルへと進化する過程の縮図でもあった。

高蝶がREFUSEをスタートさせLoud Style Designをブランドとして掲げる以前から現在に至るまでのシルバーアクセサリー業界やファッション業界を可能な限り調べてみても「XOX」と同じ様なプロジェクトは存在しない。勿論、コンセプチュアルにアイテムをリリースしたりマンスリーでリングをリリースしたりといった企画は存在したし、シーズンテーマに沿ったスタイリングやディレクションはファッション業界では当然の行為でもある。だが、コンセプトに従ってクリエイター個人が全ての制作とディレクションとスタイリングと撮影を行ってマンスリーで発表しストーリーを描いたプロジェクトは、この20年間それ以前でも存在しない。果たしてこれから先の20年でも存在するだろうか?

繊細な造型やゴージャスな装飾はこれからも多くのクリエイターやブランドが目指すだろうし、既に存在しているストーリーやヒストリーに準えてのコンセプトでクリエイティビティを発揮するプロジェクトは過去にもこれからも多く輩出される事だろう。多くのコンセプチュアルなコレクションやプロジェクトは既存の文化や宗教からのストーリーをトレースやフィルタリングする方式で解釈し発表されるが、XOXで高蝶が行ったのはLoud Style Designというブランドのヒストリーを基軸として新たなヴィジョンとストーリーを創り出しスタイルとして提示する行為だった。

「所詮は小さな違いでしかない」「大袈裟なだけで革新的じゃない」と言う人達も少なく無いとは思うが、では何故この20年間で誰も出来なかったし、やろうともしなかったのだろう?答はやはり単純だ、不可能だからに過ぎない。

REFUSEやLoud Style Designが行ってきた事が他との小さな違いでしか無く大袈裟なだけで革新性も無いのだとしたら、同じ様な事を他のクリエイターやブランドでも容易に行えた筈だし、今回の「XOX」に関して言うならば10年前のREFUSEとLoud Style Designでは不可能なプロジェクトだっただろう。

クロスリングを10種類制作する事は多くのブランドやクリエイターには容易な事だ。しかし、コンセプトやテーマに加えクオリティとスピードにバリエーション、リングそれぞれに対するスタイリングやディレクションとストーリー、表現方法やレベルを考え合わせれば、10年前の高蝶にも不可能な企画だっただろうし、この先も「XOX」の様なヴィジョンを具現化させるクリエイターやブランドが出てくる事は容易では無いと思えてしまう。

単純に個人の世界観を表現する事はクリエイターとしては当然の行為でしかないが、独自の世界を構築する事と価値を創造し共有させて継続させるには膨大な要素の実現が必要であり、結局はREFUSEやLoud Style Designが他とは違うのはシルバーアクセサリーを扱うとかファッションである表面的な部分では無く、世界を構築していく本質的な違いであって、この20年間でその違いは余りにも大きくなり過ぎた故にREFUSEもLoud Style Designも独自の道を進むより他に無く、他からすれば理解の彼岸へと至った事が今回の「XOX」で更に浮き彫りになったと言うところか。

さて、そろそろエピーローグらしく「XOX」というプロジェクトの中で何故?が付いて回る部分の解説に移ろう。「XOX」で用意されたクロスリングは全て「RE」から始まる10の言葉をタイトルとして制作されたが、これには当然ながらプロジェクトの根幹となるREFUSEからLoud Style Designの20周年へという意味でREFUSEの頭文字を取っているのと同時に、RETURNの意味が込められている。そう、電子メール等でも返信や返答の際に表記される「RE:」に代表されるRETURNの意味合いだ。

20年間のREFUSEやLoud Style Designに対する返答。価値を共有し続けてきてくれたお客さんや関係者に対して示す返答。自身の歴史と生み出し継続してきた物へ現在の自分がどう返答を出せるか?20周年を単なるメモリアルとして迎える事を屋号の通り拒絶し、騒がしくスタイルを提示しながらストーリーを描く事が、クリエイターとしての高蝶による返答。

もう一つ湧いてくるだろう疑問としては撮影は何故、最初の段階で行われなかったのか?が上げられる。「XOX」のプロジェクトスタートは2020年の1月に構想を練るところからスタートし、2月には全てのクロスリングは制作が完了していたにも関わらず、撮影は毎月毎に行われていたのだが効率を求めれば当然ながら企画スタートの段階で纏めて撮影した方が良かった筈だ。特にプロジェクトが表立ってスタートした3月にはCOVID-19の影響が拡大し始め撮影が困難になる可能性もあっただけに何故?が付いてくるが、これは時間進行をどう捉えるかが関わってくる。

進行し続ける時間の中で、プロジェクトのスタートは起点でしか無くXOXもまたREFUSEとLoud Style Designにとって時間進行の中で撮影しながら共に進化させ紡いでいく事でより深いストーリーを描き出そうとした考えからであり、要するに事前に用意した物をリリースしていくだけではプロジェクトに時間を共有させない通常のアイテムリリースと変わらないので、それではヒストリーへの返答となる「XOX」には相応しく無いとの考えからだった。

「ランウェイが出来るレベルで」と高蝶が言っていた様にブランドを代表する10のスタイリングはどれも独自の文脈とリング毎のテーマを描き出し、全てがGALLERY REFUSEにて撮影されている事が如何にREFUSEが空間と体験を重要視しているかの表れであり、やはりブランドとは単純に物を創っていれば良いだけでは無く、ディレクション能力が必要不可欠であるかを示している。

これだけ濃密なプロジェクトを行うとクリエイティビティが枯渇しそうに感じてしまうし、特にLoud Style Designにとってはクロスリングの新しいパターンを生み出すのが難しくなりそうだと勝手な予測もしてしまうが、その予測は簡単に覆される。

何故なら既にLoud Style Designは2021年11月に行う予定のコレクションに向けて新たなクロスリングを制作しており、XOXで提示されたサイジングやボリュームとも違う次のフェーズへと進んでいるからだ。一時も止まる事無く疾走してきたブランドのクリエイティビティは20年に至っても変わらずに世界を構築し続けるというところか。

REFUSEが20年間続けてきた事、Loud Style Designが20年間やってきた事。その本質は独自の世界を構築する事であり、価値を創造し派生する文化の潮流と体現に他ならない。高蝶智樹という独りのクリエイターが思い浮かべたヴィジョンは時間進行の中で他との違いを浮き彫りにさせ存在し得なかったスタイルを存在させながら何かを創り出していく。

 

MOTOR CYCLE、HOT ROD、ROCK N’ ROLL、PUNK、HEAVY METAL、LOUDと称されるカルチャーに共通する美学や哲学。そこに在る言葉では表せない衝動、心を突き動かし続ける真実を掴み取る事で生み出されるプロダクト。
造型物としての美しさを追求し、身に着けた人のスタイルとなるアイテムを自分達の手で製作する事を根幹とし、LOUDなSTYLEをDESIGNする事で創り続けるのは、深く刻まれる生き様や思想と重ね合わせ身に纏う真実。一つの真実が、手にした誰かのストーリーになりスタイルとなる。

Loud Style Designの全ては、銀という素材を直接加工する事で創り出す原型に端を発し、想像を創造へと進化させる技術を研鑽し、装像を送像する為のアイデアを練る事で転がり続けながら、不変のバランスに独自のストーリーを刻み、流れ去って行くデザインでは無く、永く在り続けるデザインを生み出す。