5 Significant Pieces 5th

どんな物事でも終わりを迎える時と言うのは高揚感の中に達成感や充足感を得る。それと同時に喪失感や緊張感もではあるが。ハッピー或いはバッドなエンディングを華々しく飾り立てるエンターテイメントの世界、特に映画ではイースターエッグ(隠されたメッセージやユーモア)と呼ばれる手法を本編のエンディング後に仕込む事で、作品のエンディングに高揚感を持たせ、観終えた達成感や充足感の裏側にある喪失感を次回作への期待で軽減し、ユーモアで緊張感を和らげて鑑賞者の心理を作品から離れ過ぎない距離のまま現実世界へと上手くリリースする。

エンターテイメント性を含んでいるとは言えども、展示会ベースでコレクションを発表する事の多いファッションの世界が苦労するのは、展示会のエンディングから店頭に並ぶまで、そうでなくとも購入者の手元に届くまで、つまりエンディングから現実に手にするリリースへのタイムラグが大きい事であり、(或いはこのラグを利用する事が業界的な慣例ともなってはいるが)情報速度が速くなり過ぎた現代では、高揚感が持続せずにズルズルとリリースからセールへと至ってしまう問題を抱え続けている点だ。

さて、話をANOTHER HEAVEN 「5 Significant Pieces」に移そう。5つのモチーフ毎に5アイテムを5ヶ月連続でリリースするプロジェクトも遂に終焉を迎える事となった。日本でのディレクターを務める高蝶が同じ様にモチーフに特化したプロジェクトとしては昨年行われた、Loud Style Designによる「XOX」が記憶に新しいが、限定的にブランドとしての在り方を示した「XOX」とは違い、ANOTHER HEAVENの「5 Significant Pieces」ではブランドの根幹や骨子を太くしながらの拡張でありつつ、イノベーティブで有るか否かの問い掛けでもあった。

多くのブランドやクリエイター達に使い古されてきたモチーフをシンプルでベーシックに。と、なるとイノベーティブなアイテムを想像する事は難しくなるのかも知れない。使い古されたモチーフであっても表現方法や細密な描写で目新しさは攫えるだろうが、革新性のある真新しさには届かないだろう。そうであるからこそ、ANOTHER HEAVENにとっては取り組むべき課題として価値を見出す事が出来たのだろうし、プロジェクトを草案当初から大きく変更させるに至ったのだろう。

草案当初から大きくプロジェクトが変更になったとは言え、5つのモチーフ毎に5アイテムで表現するだけならば、それこそプロジェクトタイトルの元となった「5 EASY PIECES」として、伝わり易く安価で手に取り易いアイテムを用意する事も可能だっただろう。しかも、COVID-19の影響下にある現在ではブランドとしてのセールスを最優先にするイージーな手法が正解である事は明らかである。それでもANOTHER HEAVENがブランドのストーリーラインとして手掛けておくべきだと選んだプロジェクトは、例え伝わり難く浸透に時間が掛かろうとも、イノベーティブなアイテムを創り出す「5 Significant Pieces」だったと言う事だ。

エンディングからリリースへ。物事は終わりが始まりでもあり始まりが終わりでもある様に、1つのプロジェクトが終了すれば次へと移って行く事になるのが常ではある。しかし、ANOTHER HEAVENというブランドのストーリーライン上で行われた「5 Significant Pieces」は、確実に次へと繋がるイノベーティブなアイテムを残し、期待と高揚感を裏切らないエンディングを迎えるだろう。

 

ANOTHER HEAVEN 「5 Significant Pieces 4th」
2021年11月18日~21日 GARAGE REFUSE  13:00~

 

GARAGE REFUSE

東京都江東区森下1-11-7 TEL: 0362402972

 

多才なグラフィックで数多くのアートピースを生み出し、スケートデッキやアパレル、タトゥーにもその才能を如何無く発揮しているLA在住のアーティスト・KOMY。
スカルやクロスボーンをメインモチーフとしながら、LAのカルチャーをKOMY独自のスタイルでブラッシュアップさせたデザインのANOTHER HEAVENは、LAのスタジオFAKTORYを軸に活動し、アーティストとしてのKOMYの拘りがデザインだけでなく、製作過程にもストーリーとして込められたブランド。
また、ヴィンテージテイストな仕上げを施したジュエリーも、一点一点手作業によって仕上げる事でタッチを調整し、ヴィンテージテイストの中でも色濃く浮かび上がるANOTHER HEAVENの世界観を表現している。