廃墟からの創造

捲れ上がった壁には幾つもの穴が空いて、埃と残骸に塗れた床にはカビが繁殖を始めてかなりの時間が経過している。座面が破れてガタ付くソファに腰を掛け、割れた窓から覗き込む陽射しで時刻を知るぐらいの空間で、得られる物は何も無いと多くの人は言うだろう。
実際に、崩れ去るか取り壊されるかを待つだけになった廃墟には近付く人は少ないだろうし、近付いて探索する人の大概は所謂な廃墟マニアと呼ばれる人々が殆どだ。

VANITASというブランドがスタートする以前、ずっと幼い頃からクリエイターの高蝶は廃墟に慣れ親しんできたと言う。時には家出の際の寝場所だったし、時には不良の溜まり場としてだったし、時にはもっと危ない遊びの為の場所だったかも知れない。そんな慣れ親しんだ廃墟という存在は、クリエイターになった高蝶には撮影場所となり、インスピレーションを得る為の空間になった。

単なる表面的なテクスチャーとしてアイテムに彩を加える目的では無く、ブランドの根幹に流れる“朽錆廃”という終わりへの表現が、廃墟という異質な空間からのインスピレーションを必要としている事は、VANITASのアイテムを手にしてみると如実に伝わってくる。

何となくの雰囲気を表現するのでは無く、体感を質感へと投影する技術が金属の肌に独特の朽ちや錆を生じさせ廃をリアルにする。
VANITASというブランドが流麗で華やかなアンティーク調の造形に、儚く脆い異質さを併せ持っているのは、異質な廃墟と言う空間が創造させたからなのだろう。

ラテン語で空虚を示す言葉であるVANITASは、生命や存在の儚さ空しさを独自のテクスチャーと様々な加工技術によって表現する事をテーマに、崩れ往く過程や錆びて朽ちる様、其の「今」という瞬間を切り取り「現在」に具現化させる。
ヨーロッパアンティーク調の様式美や、アメリカンヴィンテージの質感を取り入れながら、廃墟美にも通ずるデザインとフィニッシュは、大胆さと繊細さを兼ね備えながらも様々なシーンにフィットし、共に時間を経る毎に「今」を刻んでいきます。