ONE MAKE RHAPSODY -Loud Style Design DENIM PANTS-

コンプレックスの発生は理想と現実の差異によるところが大きく、価値観の形成を行う経験の中で自分の容姿や行動思想・趣味趣向が肯定されない、若しくは自己肯定出来ない場合に、誤って打ってしまった楔の様に心に亀裂を生みます。誰かに馬鹿にされたり認めて貰えなかったとして、其れに端を発してコンプレックスを抱える人と全く気にしない人がいるのは、個人の中での自己処理能力に違いがあるのと、どんな理想を持っているかに由来するのではないでしょうか。

2010年代の始め頃から騒がれ出した“ルッキズム批判”は容姿に於けるコンプレックス、つまり美醜での差別を批判する動きではありますが、こうした動きに対して過去に美醜で差異や格差を生み出し、散々に差別してきたファッション業界やファッションに携わるメディアが迎合する姿勢を見ていると滑稽であるのと同時に、やはりファッションとは「時代と寝る事」でしか成立しない側面を持ち合わせているのを感じる人も少なく無いでしょう。

価値観の多様性はダイバーシティが声高なスローガンの様に標榜されるずっと以前から存在していたのは確かで、ファッションで言うならば其れを示すかの様に多種多様なブランドが存在し独自の価値観で表現を行っている中、シルバーアクセサリーの世界でもまた多種多様な表現が為されていますが、メンズのシルバーアクセサリー業界で薄らと長く漂い続けているコンプレックスは“シルバーアクセサリー単体での表現に拘る事で起るファッションとの乖離。そして、其れによるシルバーアクセサリーが持つ価値観の低下”ではないかと、つまり簡単な言葉で表すなら“ファッションとしてダサい物”と評される事へのコンプレックス。

「意匠には拘るが衣装には拘らない人」と言うのは何もシルバーアクセサリーに限った事では無いですし、購入する側にも制作している人の側にも多数存在します。販売している側にとっても、利益を多く生み出す為にはファッションやスタイルを気に掛けないコレクタブルな買わせ方が容易である事も確かです。それにブランドやSHOPがどう主導しても「意匠には拘るが衣装には拘らない人」は存在し、その考え方も個人の趣味趣向でしかないので否定されるべきでは無いでしょう。しかし、それでもブランドやSHOPそして特にクリエイターはシルバーアクセサリーが身に着けて楽しむ物であるからには「意匠はどう衣装に通ずるのか?」を表現し提示し続けなければならないのだと思います。

ONE MAKEと言うシルバーアクセサリーの世界に於いて2000年代初頭から個人でブランドを展開するクリエイター達の間で使用されカテゴライズされてきた表現のフィールドの重要な定義となるのは、Order made やOne offと呼ばれるカスタマーの要望に応えるタイプの1点物とは違い、クリエイター自身が自己のブランドを見つめ直し表現する事で、ブランドに新たな楔を打つ役割がONE MAKEにはあるのだと思います。それだけに、ONE MAKEにはクリエイターとして自己のブランドをどう俯瞰で捉えて発信しているか?と、表現の多様性を如何に具現化する能力を持ち合わせているのかを問われる部分では無いでしょうか?

シルバーアクセサリーの世界で独自に派生したONE MAKEと言う表現方法は、言うなればクリエイターにとって通常の物創りを行うのとは別のフィールドとなり、基本的に其処では実験や挑戦がクリエイターの好きな様に行える場の筈です。普段の制作とは違って更に意匠に拘るクリエイターもいるでしょうし、衣装との兼ね合いに重点を置いた制作を行うクリエイターもいるでしょう。どちらが正しくどちらが誤りでも無いですが、通常アイテムとしての量産や販売を度外視して我が儘に創作を行えるフィールドでこそ、シルバーアクセサリー業界に横たわり続ける“ファッションとの乖離によるコンプレックス”を多くのクリエイターに解消してみせて欲しいとも思ってしまいます。

ブランドの在り方を考えた時に、何を目指してブランド活動を行っているのか?に対する答をブランドコンセプトとして示しているブランドやクリエイターは多いでしょう。その答の大概は要約すると「世界観の表現」となっているのですが、其れはつまりリリースされているアイテム数やアイテムカテゴリーで標榜されているとして、イコールでそのブランドやクリエイターにとっての世界や見識の範囲はアイテム数やアイテムデザイン・ジャンルとなります。Loud Style Designと言うブランドがシルバーアクセサリー業界からすると、特異点となっている理由の多くは其処にあるのでしょう。

クリエイターとは何か?クリエイティビティとは何か?を問い掛ける様なLoud Style Designを展開するクリエイターである高蝶の姿勢は、従来のシルバーアクセサリーだけを制作するクリエイターとは大きく異なり、自身がアイテムの制作や加工を行いながらスタイリングや撮影も行って写真や映像に加えて空間も手掛けるクリエイターは、ファッション業界に於いても世界的に殆ど存在しない。これは「世界観の表現」では無く「世界の構築」をLoud Style Designがブランドコンセプトにしている事が大きく、その為か特異点と言うより他に無いブランドへと進化し続けてきた事が伺えます。

Loud Style Designがそんな特異点としての能力を如何無く発揮した2020年のプロジェクト「XOX」で見る事の出来たONE MAKEであるデニムパンツは、ダメージ加工と一言でカテゴライズしてしまうには余りある多くの要素が含まれているものの、「XOX」のプロジェクト進行時にはプロジェクトの特殊性もありあまり触れられていませんでしたが、ONE MAKEとしてデニムパンツが如何に狂詩曲を奏でているかを改めて見てみましょう。

レギュラーアイテムとしてLoud Style Designで展開しているデニムパンツに使用される生地は大きく別けて2種類あり、ヘヴィオンスのリジットタイプとストレッチの効いたスキニータイプになるのですが、どちらにも共通しているのはデニムの縦横糸がブラックで統一されている事です。デニムはその生地の特性上、加工を行うのに縦横糸の生地目を考える必要があり、ダメージ加工にしても生地の特性を理解した上で行う事になります。

ブランドのヒストリーを紐解くとLoud Style Designがデニムの加工を行いONE MAKEとしてリリースし始めたのは2005年頃で、当時はダメージ加工等を行うよりもヴィンテージデニムに対するレザーとシルバースタッズによる装飾と再構築が主であり、現在では消滅してしまったブランドBACKBONEとのコラボレーションや、アメリカンデニムブランドAGとのコラボレーション等で、あくまでもシルバーアクセサリーブランド側からのアプローチを行っていました。

ブランド独自のアパレルラインとしてデニムパンツやデニムの加工は2005年当時から試験的に行われていたものの、レギュラーアイテムとしてLoud Style Designがデニムパンツをリリースするのに2009年頃まで掛かった理由は、先述したデニムの特性や加工方法を熟知し確立するに至るにONE MAKEと言うフィールドでの実験を繰り返し、ブランドのオリジナリティを具現化させる為に学びの時間を必要としたからでしょう。

オリジナルのデニムパンツをレギュラーアイテムとしてラインナップに加え、一旦は落ち着いたかに見えたデニムに対する研究や加工が再熱したのは、Los Angelesで高蝶が出逢った「SCHAEFFER’S GARMENT HOTEL」の存在に他なりません。現在、GARAGE REFUSEでも取り扱われている質実剛健を地でいく様なアメリカンヴィンテージスタイルなSCHAEFFER’Sのデニムは、高蝶の中に“デニムの在り方”を再認識させLoud Style Designのデニムパンツを見つめ直す切っ掛けとなりました。

ここからの展開がまたLoud Style Designが特異点として扱われる所以なのでしょうが、先ずはGARAGE REFUSEに新たな加工場を設置し必要な工具やトライ&エラー用の部材を揃えていき、リリースされる事の無い実験が繰り返されます。トライ&エラーと言うよりは、ある種のリハビリテーションの様にデニムに対する加工は続き、スタイリングを見据えたアイテムとしてシンプルなダメージ加工から幾重にも加工を重ねたONE MAKEまでを可能にしていく事になります。

縦横糸がブラックである事を活かして漂白したデニムから研磨によって黒ずみが浮き出ている様にする加工や、溶剤に金属とレザーを混入する事で錆や汚れを着ける加工。ウォッシュとペイントを繰り返してデニムの表情を変化させる手法やレザーとのランダムな縫い合わせによって経年と再構築を思わせる表現等、過去に行ってきたデニムに対する加工とは一線を画す“デニムの在り方”をONE MAKEと言うフィールドならではの実験性と挑戦を交えてブランドのスタイルに昇華させているデニムパンツは、Loud Style Designの世界を構築する為のピースとして綺麗に収まっている事が、「XOX」のスタイリングでは明確に標榜されていたのでは無いでしょうか。

前回のスタイリングプロジェクト「RUMBLE」でも見る事が出来た様に、Loud Style DesignによるONE MAKEのデニムパンツは現在も新たなモデルが制作され続けていて、過去に行っていたシルバースタッズやレザーを盛り込んで意匠に拘る加工から、デニムその物をどの様に衣装として組み込むかの加工を主軸とする進化を遂げている事が伺えるでしょう。ただ、ONE MAKEとして捉えると、昔の様に意匠に拘った狂詩曲をまた響かせている姿を見たいとも願ってしまいますけど。皆さんはどう感じているでしょうか?

 

ご紹介をさせて頂いたアイテムはGALLERY REFUSEでのご購入が可能となりますので、ご興味のあるお客様は是非ともご確認ください。

GALLERY REFUSE

東京都江東区森下1-13-11 TEL: 0356001972

 

1999年に高蝶智樹によって設立されたREFUSEは、空間であり組織であり概念である。
GALLERY、FUCKTORY、GARAGEの三拠点からなる創作と表現の空間は、エクスペリエンスを齎す事によって生まれる新たな選択を軸として構成されていて、空間毎にそれぞれ違ったスタイルと時間を楽しむ事が出来ます。
また、GALLERYでは空間と創作を楽しむイベントとして「GALLERY MADE」が毎月行われ、GARAGEでは「TRADING GARAGE」というREFUSEならではのイベントが不定期で行われます。

BRAND LIST
GALLERY REFUSE: Loud Style Design, VANITAS, BLACK CROW
GARAGE REFUSE: ANOTHER HEAVEN, 十三, SCHAEFFER’S GARMENT HOTEL, TNSK, …and more