温故知新と陰影礼賛が織り成すコントラスト

VANITASというラテン語の名は静物画のジャンルとして語られる事が多く、隠喩的に虚栄の儚さを表す絵画に登場するのは、繁栄や英知を示す物の傍らに頭蓋骨や時計、腐敗していく植物等の「死すべき定」を象徴する何かだ。

こうした絵画的な要素と宗教美術に加えて、アラベスクやアカンサス等の西洋アンティークに見られる様式美が、ブランドとしてのVANITASにはデザインとして組み込まれている。

直感を論理的に解体する事で理論や哲学を導き出すタイプの高蝶が手掛けるブランドにしては、キリスト教に代表される宗教観や古くからの様式美を強く取り入れた、悪く言えば“使い古された”モチーフやデザインをサンプリングし組み合わせてカタチにしていく手法は、既に存在する完成形を使用しての構成という事になるのだが、それでもVANITASのラインナップで新しい魅力を引き出せている要因は何だろうか?

一つはサンプリングの際の解体手法と解釈であり、デザインやファッションに加えて今では音楽の業界でも当然になっているコラージュの手法とは一線を画している点だろうし、もう一つは(おそらくこちらが最大の要因だろうが)古くからの技法を解体し新しい解釈をしながら制作に取り組む事で、ブランドのコンセプトを表現する“陰影”を生み出している点にある。

モチーフやコラージュで暗さや陰鬱さを出す様な現在のシルバーアクセサリー業界で増えてきた論理的デザイン手法ではなく、直感的に解体を行い自然と残酷さと儚さの陰影を生み出す。そんな創り手は多く無い。

VANITASで見る事が出来る温故知新や陰影礼賛のコントラストは、直感的な解体と解釈によって彩られている。

ラテン語で空虚を示す言葉であるVANITASは、生命や存在の儚さ空しさを独自のテクスチャーと様々な加工技術によって表現する事をテーマに、崩れ往く過程や錆びて朽ちる様、其の「今」という瞬間を切り取り「現在」に具現化させる。
ヨーロッパアンティーク調の様式美や、アメリカンヴィンテージの質感を取り入れながら、廃墟美にも通ずるデザインとフィニッシュは、大胆さと繊細さを兼ね備えながらも様々なシーンにフィットし、共に時間を経る毎に「今」を刻んでいきます。